【生物工学】治療用タンパク質を脳内に送り込むペプチドの発見
Nature Communications
2015年9月16日
中枢神経系の疾患の治療薬は、血液脳関門(BBB)を越えて作用部位に到達できさえすれば、有効な治療効果が得られるものが多い。BBBを克服して多発性硬化症(MS)の治療に役立つ可能性のある新しい薬物送達手段についての報告が、今週掲載される。BBBは、毒性、感染性やその他の危険可能性をもつ物質が脳に入らないようにしているが、治療薬の侵入も遮断し、特にタンパク質のような大型分子の侵入を効果的に阻止している。
今回、Je-Min Choiたちは、細胞膜を透過し、細胞内にタンパク質や薬物を輸送できる細胞透過性ペプチドの一種を用いたツールを利用して、BBBの克服に成功した。これまでは細胞透過性ペプチドを用いてBBBを効率的に通過することができなかったが、Choiたちが新たに設計したdNP2ペプチドによってそれが可能になった。このdNP2に蛍光タンパク質を結合させて、実験用マウスの脊髄と脳に注入したところ、脊髄と脳が蛍光を発し、dNP2-タンパク質複合体がBBBを通過したことが明らかになった。
次にChoiたちは、リンパ球の活性化を阻害するタンパク質であるCTLA4の断片にdNP2を結合させた。リンパ球の過剰な活性化による脳と脊髄組織の損傷は、MSの背後にある機構とされる。dNP2-CTLA4による治療は、MSのマウスモデルにおける健康転帰を改善する上で有効だった。以上の結果は、タンパク質による治療薬を用いたMSなどの神経疾患の治療にdNP2が役立つ可能性を示唆している。
doi:10.1038/ncomms9244
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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