自閉症者の知覚学習能力を手助けする
Nature Neuroscience
2015年10月6日
自閉症スペクトラム障害(ASD)の成人において、行動の柔軟性の欠如(硬直した対人関係、学習障害を含む)が知覚の認知にまで及んでいるという報告が、今週掲載される。ASDの治療と教育に広く用いられる手法の1つである反復が、実際には柔軟性を低下させている可能性があり、反復を減らすことで、1つの状況で学習した内容を別の状況で発揮する(般化)能力を高められる可能性が、この論文で示唆されている。
今回、Dov Sagiたちは、高機能ASDの成人の集団と、年齢と性別の対応した非ASDの成人の集団(対照群)にテクスチャー弁別課題を実行させた。これは、画面上で数多く配置された横線の中に混じって配置された3本の線(目標物)の向きを判断するという課題である。この実験では、ASD被験者(10人の成人)と対照被験者(9人の成人)のいずれもが、この課題を学習し、実験当初の4日間に同程度まで成績が伸びた。ところが、Sagiたちが目標物である3本の線の位置を変更したところ、ASD被験者の場合成績がかなり落ち込み、変更後の再学習は当初よりかなり遅くなった。以上の結果は、ASDの被験者は新しい条件を学習する能力が阻害されていること(過剰特異性)を示している。
一方、別のASD被験者の集団(10人の成人)と非ASD被験者の集団(10人の成人)には、目標物である3本の線の向きを他の横線の向きと同じにした「ダミー」試験を数回追加して変更後の課題を実行させた。すると、ASD被験者は対照被験者と同じ速さで変更後の課題を学習でき、目標物の位置を変えた場合には学習内容の般化を行った。
当初の試験での目標物の反復によって過大な感覚適応をさせられたため、低次視覚野における目標物の表現が低下し、そのためにASD被験者の知覚の柔軟性が低下した可能性が高い。逆に、ダミー試験で学習の般化が起こる可能性が高いのは、刺激の変動が大きいために感覚適応が少なかったことによっている。
doi:10.1038/nn.4129
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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