耐えられない猛暑がペルシャ湾岸地域を襲う
Nature Climate Change
2015年10月27日
温室効果ガス排出量が現在のペースで増え続ければ、今世紀中にペルシャ湾周辺での極端な気温と湿度が人間の許容限度に近づき、それを超えてしまう可能性の高いことを報告する論文が、今週のオンライン版に掲載される。この新知見は、ペルシャ湾岸地域の居住可能性が今後の極端な気象現象によって深刻な影響を受ける可能性を示唆している。
人間の体は、汗の蒸発による冷却作用によって熱を発散できるが、そのためには、湿球温度(気温と湿度の複合的な指標)が摂氏35度(華氏95度)という閾値を下回る必要がある。この閾値を超えると、人間の体は自力で冷却できなくなり、壮健で健康な人でさえ屋外で生き残ることは極めて難しくなる。
今回、Jeremy PalとElfatih Eltahirは、いくつかの高分解能地域気候モデルによるシミュレーションを用いて、21世紀後半(2071~2100年)にペルシャ湾周辺地域の湿球温度が極端なレベルに達する状況を予測した。この研究では、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2つの気候シナリオである「これまで通り(BAU)」の代表的濃度経路(RCP)8.5と緩和を考慮に入れたRCP4.5を用いて、大気中の温室効果ガス濃度の影響を調べた。その結果、排出量の多い方のシナリオでは、アブダビ、ドバイ、ドーハ、ダーラン、バンダルアバスといった主要都市で、極端な湿球温度が人間の生存の閾値を時々超えるという予測になった。また、こうした状態は緩和活動を伴う温室効果ガス濃度経路が低い場合に回避されることも明らかになった。 さらにPalたちは、高排出シナリオで予測された極端な湿球温度によってメッカ巡礼(数百万人のイスラム教徒の巡礼者がメッカ近くで日の出から日没まで祈り続ける)が深刻な影響を受ける年が数回あると予測される点を指摘する。また、Palたちは、夏のメッカ巡礼における屋外での宗教儀式が人間の健康、とりわけ高齢の巡礼者の健康を脅かす可能性が高いという見解を示している。
同時に掲載されるNews & Views記事で、Christoph Scharは、最近の熱波で最もリスクが高かったのが高齢者と病人だが、PalとEltahirがモデル化したペルシャ湾岸周辺地域の状態は、若者や健康な者に対しても危険を及ぼすと記している。「従って、この新しい研究は、人間の健康に対する脅威がこれまで考えられていたよりもかなり深刻であり、21世紀中に生じる可能性があることを明らかにしている」。
doi:10.1038/nclimate2833
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
生物学:全ヒト細胞アトラスの作成Nature
-
天文学:近くの恒星を周回する若いトランジット惑星が発見されるNature
-
気候:20世紀の海水温を再考するNature
-
健康科学:イカに着想を得た針を使わない薬物送達システムNature
-
化学:光を使って永遠の化学物質を分解する新しい方法Nature
-
生態学:リュウキュウアオイが太陽光を共有するNature Communications