【医学研究】喘息薬で高齢のラットの精神活動が若返る
Nature Communications
2015年10月28日
喘息薬のモンテルカストを用いた治療によって高齢のラットの認知機能が回復し、新しい脳細胞の生成が促進されたことが初期研究で明らかになったとの報告が掲載される。この新知見は、モンテルカストを使って、加齢に伴う認知機能障害の影響を低減することが可能なことを示す初期段階の研究成果だ。モンテルカストは、ロイコトリエン(炎症性メディエーターの一種)の阻害剤であり、現在は喘息の治療に用いられている。
ヒトの平均余命が延びると、加齢に関連する認知障害と認知症を抑制することがますます難しい課題となっている。加齢に関連した認知機能低下の徴候としては、新しい脳細胞の生成(神経新生)の鈍化と脳の免疫細胞(ミクログリア)の活性化を原因とする神経炎症がある。急性・慢性脳損傷と高齢者の脳において、ロイコトリエンの濃度が上昇するという研究報告があり、この濃度上昇がミクログリアの誘導と活性化によって神経炎症に関与している可能性がある。
今回、Ludwig Aignerたちは、5~10匹の若齢ラット(生後4か月)とそれと同程度の数の高齢ラット(生後20か月)にモンテルカスト(体重1 kg当たり10 mg)を6週間にわたって投与する実験を行った。その結果、高齢ラットの場合には、学習と記憶は有意に改善されたが、若齢ラットでは効果は認められなかった。モンテルカストを使った治療法で、神経炎症が減り、新しい脳細胞の生成と機能的利用が増進することが明らかになった。
さらにAignerたちは、遺伝子組換えによってロイコトリエン受容体GRP17の発現量の減ったマウスの細胞を使った実験で、モンテルカストがGRP17を抑制して効果を発揮している可能性が高いことを示す証拠を得た。以上の結果は、モンテルカストを用いることで、老化した脳の薬理学的若返りを実現できる可能性を示している。
doi:10.1038/ncomms9466
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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