Research Press Release
生物物理学:ヒトの精子は物体の表面近くで素早く泳ぐ
Nature Communications
2015年11月11日
ヒトの精子は、物体の表面に近い場所にいると、近くに表面のない場合よりも素早く直線的に遊泳することを報告する論文が掲載される。これは、狭い生殖器系に適応した戦略の反映なのかもしれない。
精子は、長い尾部(鞭毛)のむち打ち運動によってらせん状に遊泳する。水生動物の精子は、このむち打ち運動によって水中を進むが、体内の生殖器には広大な表面部分があり、精子はこれにも対応する必要がある。こうした表面の存在が精子の挙動にどのように影響するのかは分かっていない。
今回、David Sintonたちは、この点を詳細に調べるため、ガラス表面から1ミクロン以内の部分で遊泳するヒト精子の映像を記録し、バルク溶液中を遊泳する精子と比較した。表面上を遊泳する精子は、ずるずる滑るように進む独特の遊泳形態をとり、それによって精子が表面に沿って素早く直線的に遊泳していた。ずるずる滑るように進む遊泳形態は、ヒトの生殖管を模倣するために作製された高粘性の液体の中で観察されることが多かった。これに対して、雄牛の精子は、表面近くに置かれると遊泳速度が低下した。
受精が起こるヒトの輸卵管(ファロピウス管)は、狭い高粘性環境だ。雄牛の輸卵管は、ヒトの輸卵管よりかなり大きく、精子と表面の相互作用が起こる頻度は低い可能性がある。従ってヒトの精子のずるずる滑るように進む遊泳形態は、ヒトの生殖器系の狭い領域に適したものと考えられる。
doi:10.1038/ncomms9703
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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