抗アミロイドベータ治療法によってアルツハイマー病のマウスモデルの脳活動の異常が悪化する
Nature Neuroscience
2015年11月10日
脳内のアミロイドベータ(Aβ)の沈着を減らす治療法は神経機能障害を修復する効果がなく、実際には悪化させることがマウスの研究によって明らかになり、このたびオンライン版に掲載される論文で報告される。脳内に沈着したAβは、凝集して塊(プラーク)を形成し、これがアルツハイマー病の病理学的特徴の1つとなっている。
これまでの研究では、実験動物に変異型ヒトアミロイドタンパク質を発現させるとAβプラークが沈着し、このプラークが神経活動の異常亢進を誘発し、神経回路の正常な機能を阻害することが明らかになっている。
今回、Arthur Konnerth、Marc Buscheたちの研究グループは、ヒト変異型アミロイド前駆体タンパク質を過剰発現するマウスに対し、Aβを標的とする2種類の抗体のいずれか(計14匹)または対照抗体(19匹)を投与して、神経機能障害を治療できるかどうかを調べた。Aβを標的とする抗体の投与によってマウスの脳内におけるAβプラーク負荷が低下したが、その一方で神経活動の亢進したニューロンが増えてしまった。
この結果は、高齢のマウスの場合(14匹にAβ標的抗体を投与し、19匹に対照抗体を投与した)とAβの蓄積が起こっていない若齢のマウスの場合(10匹にAβ標的抗体を投与し、13匹に対照抗体を投与した)の両方で得られたが、正常なマウス(5匹にAβ標的抗体を投与し、3匹に対照抗体を投与した)の神経活動は影響を受けなかった。このことは、ヒト変異型アミロイド前駆体タンパク質を過剰発現するマウスにおける症状の悪化がAβの存在に依存しており、抗体に対する炎症性応答に付随した効果によって説明できないことを示唆している。
アルツハイマー病の動物モデルにおける神経結合の弱化と記憶障害を抗Aβ療法によって防止できることが他の研究によって明らかになっているが、こうした効果だけでは神経機能障害の修復に不十分だとKonnerthたちは指摘している。
Konnerthたちは、抗Aβ療法によって認知障害が改善されないというヒト臨床試験の結果を今回得られた知見から示唆される細胞機構によって一部説明できるという見解を示し、動物モデルで観察された神経活動の異常亢進が患者における抗Aβ療法の有効性の低さと関連しているかどうかを突き止めるには、さらなる研究が必要なことも指摘している。
doi:10.1038/nn.4163
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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