【生態】英国の生態系から重要生物種が失われている
Nature Communications
2015年12月9日
英国の生態系に関し、環境変化の影響からの回復力が過去40年間に低下したことを明らかにする論文が掲載される。この論文では、英国の生態系が、特定の生物種の一群だけが実施できる重要な機能を失う危機に瀕していることが示唆されている。
1つの生態系において、さまざまな生物種が重要な役割を果たして(例えば、昆虫が花の受粉を行い、あるいは、ミミズが有機物を分解して)、特定の重要機能が必ず提供されるようにしている可能性がある。また、複数の生物種が同じ機能を提供する能力を有していることがあり、生態系において、同じ機能を果たす生物種が消失することに備えた、ある程度の保険(冗長性)となっている可能性がある。
今回、Tom Oliverたちは、英国における過去40年間の鳥類、哺乳類、無脊椎動物と植物(合計4,400種以上)の生息数のトレンドを解析し、生態系においてどの生物種がどの機能を果たすのかを同定した。その結果、重要な機能(花粉媒介、害虫の防除など)を果たすことのできる生物種群の規模が著しく縮小しており、その一方で、炭素隔離に関連する機能を果たす生物種群(例えば、維管束植物)と分解に関連する機能を果たす生物種群の生息数が安定化してきたことが判明した。
Oliverたちは、こうした生物種群を1970年以前から英国に存在していた生物種とそれ以降に英国に侵入した生物種に分け、1970年以降に侵入した生物種のほとんどが炭素隔離と分解などの機能を果たす生物種で、そうした役割が1970年以降に安定的に発揮されたことを発見した。これとは対照的に、同期間中に英国に侵入した花粉媒介と害虫防除を行う生物種が減っており、農業と食料生産にとって極めて重要な生物種の方が環境の変化に対する回復力が低く、急速に減少している可能性のあることが示唆されている。
doi:10.1038/ncomms10122
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
生物学:全ヒト細胞アトラスの作成Nature
-
天文学:近くの恒星を周回する若いトランジット惑星が発見されるNature
-
気候:20世紀の海水温を再考するNature
-
健康科学:イカに着想を得た針を使わない薬物送達システムNature
-
化学:光を使って永遠の化学物質を分解する新しい方法Nature
-
生態学:リュウキュウアオイが太陽光を共有するNature Communications