【遺伝】ブリテン諸島での人間の移動史の解明に古代DNAが一役
Nature Communications
2016年1月20日
英国で採取された古代のヒトDNAについて新たな解析が行われ、(紀元5世紀頃の)アングロ・サクソン人の侵入前後のヨーロッパ大陸からグレートブリテン島への人間の移動による影響の解明に役立っている。この解析結果は、このたび掲載される2編の論文に示されている。
これまでに行われた現代人のゲノムを用いた遺伝学的研究では、ブリテン諸島への人間の移動とブリテン諸島からの人間の移動の歴史に関して一致した結論が得られていない。最近、古代の遺伝的情報を引き出すための技術が改良され、人間の歴史における大規模な移動に関する手掛かりがもたらされるようになっている。
今回、Daniel Bradleyたちは、英国北部に埋葬されていた9人の遺体から採取されたDNAの塩基配列解析を行った。そのうちの7人は、ヨークにある古代ローマ時代(紀元前後期/紀元後初期)の墓地に埋葬され、1人がそれより前の鉄器時代に埋葬され、1人がそれより後のアングロ・サクソン時代に埋葬されていた。その結果、古代ローマ時代に埋葬された人々のゲノム全体が現代のケルト系英国人のゲノムと鉄器時代の人々のゲノムと似ていたが、現代のヨークシャーの人々のゲノムやアングロ・サクソン人のゲノムと著しく異なっていることが判明した。また、Bradleyたちは、古代ローマ時代に埋葬された7人中6人が、ゲノム上のシグナルの点で、先住民のブリトン人であったことを明らかにした。残りの1人には、中東と北アフリカの現代人と高度な遺伝的類似性が見られ、ローマ帝国内で人々が非常に遠くの地域から移動していたことが示唆されている。
一方、Stephan Schiffelsたちは、イングランド東部のケンブリッジ近くにある墓地に埋葬されていた鉄器時代とアングロ・サクソン時代の10人のゲノムの塩基配列解析を行った。この研究では、現代人の遺伝的データを用いて、10人の古代人と現代の英国人とその他のヨーロッパ人との関係を解析した。その結果、イングランド東部の現代人の祖先の約30%がアングロ・サクソン人の移動に由来しており、その割合がウェールズ人とスコットランド人より高く、アングロ・サクソン時代の人々のゲノム試料は、鉄器時代の人々のゲノム試料よりも現代のオランダ人とデンマーク人と遺伝的類似点が多いことが判明した。
doi:10.1038/ncomms10326
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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