【生態】世界における漁獲量の減少は過小評価されている
Nature Communications
2016年1月20日
世界の漁獲量は、過去60年間にわたって大幅に過小評価されており、漁獲量の減少は現在の推定より急速に起こっているという結論を示した論文が掲載される。これは、いわゆる「漁獲量の再現(catch reconstruction)」というプロセスに基づいて得られた結論だ。漁獲量の再現が目指すところは、データが欠落している場合に科学文献をくまなく探し回り、現地の専門家に問い合わせることで、公式報告による漁獲量の統計を改善することだ。
国際連合食糧農業機関(FAO)は、加盟国から提出された漁獲量データの照合作業を行っている。このデータは、科学者と政策立案者が利用できる世界の漁獲量データセットとして唯一のものだ。しかし、一部の加盟国が零細漁業、遊漁業や違法漁業による漁獲量だけでなく、混獲投棄(不要な漁獲物を海に戻すこと)のデータを省略している可能性があるため、世界の漁業の状態に関して誤解が生じる恐れがある。
各国がFAOに提出する記録で「データなし」の項目は、通常、ゼロと評価される。そのため、統計に漁獲量が正確に反映されない恐れがある。
今回、Daniel PaulyとDirk Zellerは、50以上の研究機関の100人以上の共同研究者から集めたデータを用いて、このFAO統計の改訂を行った。Paulyたちの推定では、1950~2010年に記録された世界における総漁獲量が50%以上過小評価されてきたことが示されている。(つまり、漁獲量データに総重量で50%以上の違いがあるということだ。)統計をとり始めた1950年以降、漁獲量が毎年着実に増えてきたことが、FAO統計と今回の改訂による推定値のいずれにおいても示されているが、今回改訂されたデータセットによれば、世界の漁獲量が1996年に1億3000万トンでピークに達し、その後2010年まで1年当たり約120万トンのペースで減少を続けたとされる。一方、FAOの推定によれば、漁獲量のピークは同じ1996年の8600万トンとされるが、その後の減少ペースは1年当たりわずか38万トンだ。
Paulyたちは、こうした違いの主な原因は(零細漁業や遊漁業ではなく)大規模漁業による漁獲量の減少の方が大きいことにあるという見解を示しているが、今回の解析で漁獲量減少をもたらすと考えられる具体的な要因を選びだせなかったこと、そして、FAOの推定と今回のPaulyたちの推定のいずれにも高度の不確実性があることを認めている。
doi:10.1038/ncomms10244
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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