【健康】幹細胞治療のための心筋細胞のコンディショニング
Nature Communications
2016年1月20日
ヒト幹細胞から作製されたヒト心筋細胞を電気的に刺激することが、心筋細胞の発達と機能に役立つことを報告する論文が、今週掲載される。細胞を用いた今回の研究結果は、動物モデルで確認されれば、ヒトの心臓に影響が及ぶ疾患の治療を目指す幹細胞治療の現在の開発活動に役立つ可能性がある。
幹細胞由来の心筋細胞については、心臓に移植して、損傷した心臓組織を置き換えるという治療可能性が、心筋細胞の構造的未熟さと機能的未熟さのために発揮されていないというのが現状だ。実際、幹細胞から作製された心筋細胞は、通常、コネキシンの産生量が非常に少なく、こうした未熟な心筋細胞が移植されても、宿主の心筋(心臓の筋肉壁)に正しく結合しない。コネキシンは、隣接する心筋細胞の間に狭い間隙を生み出すタンパク質で、それによってイオンと低分子が心臓内で自由に移動できるようになっているからだ。また、未熟な心筋細胞は、自発的に異常な電気的刺激を生み出すこともあり、これは、命に関わる恐れがある不整脈(不規則な心臓の鼓動)につながる。
今回、Gordana Vunjak-Novakovicたちは、幹細胞由来のヒト心筋細胞を培養し、それを用いて三次元構造体を作製した。そして1週間にわたって、この三次元構造体に電気シグナルを継続的に送った。この電気シグナルの強度は、健常者の心臓における強度に近いものとした。その結果、この電気的刺激によって心筋細胞の結合性と筋収縮の規則性が高まることが明らかになった。未熟な心筋細胞は、この電気シグナルに応答して、コネキシンの産生量を増やし、細胞間で急速な電気伝導が起こるようになり、また、心臓の正常な電気活動を調節するカリウムチャネルの構成単位であるいわゆるhERGタンパク質の産生量も増やした。
今回の研究によって得られた知見は、予備的な知見で、動物モデルで検証されていないが、未熟な心筋細胞を電気的に刺激するという方法によって、宿主の心筋に完全に取り込まれ、同期して拍動するようになる段階まで心筋細胞が発達する可能性が示唆されている。
doi:10.1038/ncomms10312
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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