【生態】「海の砂漠」で植物プランクトンの繁栄をもたらす島の存在
Nature Communications
2016年2月17日
島の存在が太平洋の海洋生態系の維持に非常に重要な役割を果たしていることを報告する論文が、今週掲載される。海洋上層に生息し、光合成を行う微生物である植物プランクトンの個体数が、島の近くで多くなっていることが今回の研究で明らかになったのだ。この現象は、栄養素の乏しい水域での多様な海洋生態系の繁栄を可能にしている。
植物プランクトンは、海洋生態系の基礎的な構成単位で、世界の漁業の持続可能性にとって非常に重要なものであり、海洋の「草原」と考えることができる。一部の島を取り巻く植物プランクトンのバイオマスが周辺海域と比べて異常に多いことが、これまでに行われたいくつかの研究によって指摘されていたが、このいわゆる「島効果(island mass effect; IME)」がどの程度広がっているのかは、これまであまり解明されていなかった。
今回、Jamison Goveたちは、人工衛星画像と船舶による調査結果を用いて、35のサンゴ礁島を調べ、太平洋の海盆全体におけるIMEの広がりを評価した。そして、Goveたちは、島と環礁の生態系の91%でクロロフィル-a(植物プランクトンのバイオマスの指標)が長期的に増加していることを明らかにし、島の大きさと種類、海底の傾斜、サンゴ礁の面積、人間の居住が、こうした増加の主たる駆動要因であることを示した統計を公表した。また、全体的傾向として、IMEによって植物プランクトンのバイオマスが正常な海洋条件下での数値を最大86%増加する可能性があり、それによって栄養段階を高めるための基礎エネルギー源になっていることも判明した。
植物プランクトンのバイオマスの増加は、サンゴ礁群集と漁業資源の増加を促進するため、海洋生態系にとっての朗報となり得るが、有毒藻類の異常繁殖と(サンゴ礁を形成しない)多肉質藻類の増殖が促進される可能性があり、魚類と海鳥の命取りになるとも考えられる。それに加えて、今後の海流の変化によっては、こうした太平洋のサンゴ礁域に今より多くの栄養素が運ばれる可能性もあり、このような生態系の研究を継続させる必要がある、とGoveたちは警告している。
doi:10.1038/ncomms10581
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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