【海洋学】海洋酸性化がもたらすグレートバリアリーフの悲嘆
Nature Communications
2016年2月24日
海洋酸性化によるグレートバリアリーフ(GBR)の内礁の溶解がこれまで考えられていたよりも早く進む恐れのあることを報告する論文が、今週掲載される。今回の研究で、GBRにおいて最も海洋酸性化の影響を受けやすい領域が明らかになったが、これは、保全管理戦略の標的を効果的に絞り込む上で必須の情報だ。
サンゴの骨格は、通常、炭酸カルシウム(CaCO3)からなるアラレ石(アラゴナイト)でできている。ところが、海洋酸性化(大気中の二酸化炭素濃度の上昇の結果として海洋のpH値が低下すること)によって海水の化学的性質が変化し、海水から析出する炭酸カルシウムの量が減少する。このことは、海水のいわゆる「アラゴナイト飽和度」(炭酸カルシウム析出能の指標)が次第に低下していることを示唆している。アラゴナイト飽和度が低下すると、サンゴの骨格形成が難しくなり、サンゴが溶解するリスクが高まる。GBR全体にわたるアラゴナイト飽和度に関する情報は、これまでのところ、わずかな数の個別のサンゴ礁に限られており、アラゴナイト飽和度の空間変動の駆動因については、これまでほとんど解明されていない。
今回、Mathieu Monginたちは、地域的な海洋循環・生物地球化学結合モデルと野外観測を組み合わせて、3,581か所のサンゴ礁のデータをもとに、GBR全体にわたるアラゴナイト飽和度を推定した。Monginたちは、アラゴナイト飽和度の空間変動が、これまで考えられていたより約50%大きく、この空間変動が上流のサンゴの成長(主にGBR北部とGBR礁縁部でのサンゴの成長)による炭酸イオンの欠乏によって主に制御されていることを明らかにした。このことは、GBRの内礁と南部のサンゴ礁の方が溶解のリスクが高いことを示している。この空間変動の増大は、予測されているアラゴナイト飽和度の変化とそれによるGBRへの影響が予測より大きい可能性を示唆している。
アラゴナイト飽和度の変化は、GBRの生態学的状態を制御する数多くの要因の1つに過ぎない。また、GBRの脆弱性を正確に予測するためには、地域的な炭素循環、石灰化・溶解過程とその他の人間活動による圧力を考慮に入れる必要がある点に注意すべきだ、とMonginたちは述べている。
doi:10.1038/ncomms10732
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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