【神経科学】新たな忘却の機構
Nature Communications
2016年3月16日
過去の出来事の記憶を抑制しようとすると、記憶を抑制した時期の前後に起こった無関係な経験まで忘れてしまうことを報告する論文が掲載される。この新知見は、心的外傷を引き起こす出来事の後に物忘れが起こる現象を説明する上で役立つ可能性がある。
今回、Justin Hulbertたちは、381人の参加者による7つの実験で記憶想起の研究を行い、最近の出来事が忘れられてしまう機構を解明した。この実験で、参加者は、関連した一対の単語(例えば、「跳躍」と「バレエ」)を記憶する課題を行った。また、参加者に対しては、コンピューターの画面上に一方の単語が表示された後、それと対になる単語について考え、あるいは考えないように指示した。この実験では、ありそうにない出来事(駐車場にクジャクがいること)の画像が、時々コンピューター画面上に表示された。次に、特定の写真の背景部分を自動的に表示し、そこに写っていた物体を参加者に思い出させるという内容の記憶想起の検査が行われた。
その結果、単語の記憶を抑制する指示があった場合には、抑制対象となる単語の指示があった直前または直後に示された物体の詳細を記憶することも難しくなっていたことが判明した。また、Hulbertたちは、磁気共鳴画像法を用いて、記憶抑制を行っている参加者の脳の活動を観察して、記憶形成の阻害が海馬(新規記憶の形成に必須なことが知られた脳領域)の活動低下の程度だけでなく、外側前頭前皮質の活動の程度とも直接相関していることを明らかにした。
以上の結果から、不必要な記憶を意識的に抑制すると、認知によって誘発される健忘症が生じることが分かり、忘却の新たな機構として同定された。この機構は、心的外傷後ストレス障害やその他の急性外傷の患者に見られる記憶障害を説明する上で役立つ可能性がある。
doi:10.1038/ncomms11003
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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