重篤な病気の原因となる変異を持つのに、健康な人々を発見
Nature Biotechnology
2016年4月12日
50万人以上のゲノムを解析したところ、重篤な小児疾患に結びつく遺伝子変異を持っているにもかかわらず健康に見える人が13人見つかったとの報告が寄せられている。このような抵抗性の生物学的理由はまだ解明されていないが、この研究は、このような病気を防ぐ働きをする遺伝的変異を突き止める第一歩であり、遺伝的変異と重篤な病気との因果関係に関するこれまでの見方を見直す必要があることがはっきりした。
嚢胞性線維症のようなメンデル疾患は、普通は1個の遺伝子の変異によって引き起こされ、小児期早期に発症することがある。このような変異は完全に浸透性である、すなわち変異を持つ個体には全てその病気の症状が必ず現れると考えられている。しかし、遺伝子検査が行われるのはほとんどの場合病気を発症した人とその家族に限られるため、健康な人の中にも、このような変異を持っているが見過ごされている人が少数存在する可能性がある。
Stephen Friend、Eric Schadt、Rong Chenたちは、589,306人の遺伝子データを利用して、584種類の重篤な小児メンデル疾患に対する抵抗性を持つ人を探した。874の遺伝子について病気の原因となる、完全な浸透性を示す変異を探し、認定資格を持つ臨床遺伝学者、医療コンサルタント、生物情報科学者、遺伝カウンセラーからなるチームで、その信頼性を確認した。この専門家チームは、入手可能な健康情報の精査も行って、健康と見なされた人たちの中に、この変異と関連する病気の兆候がわずかでも報告されている人がいないことを確認した。
彼らの分析により、8種類の小児メンデル疾患のどれか1つに対して完全な抵抗性を持つように見える人が、13人見つかった。この13人が、高い浸透性を示す病原性変異の作用に関わる因子を同定するカギとなるかもしれないと著者たちは述べている。またこの13人は、待望の標的化治療法の開発にも役立つ可能性がある。しかしそれには、抵抗性を持つ人をさらにもっと多く見つけ出して分析する必要があるが、そのこと自体、何千万ものゲノムを解析しなくては行えない。
同時掲載のNews & Views記事では、Daniel MacArthurが「さらに研究を進めようにも、研究者たちは、抵抗性を持つ人たちの大半に再度接触することができなかった。必要となる承諾が得られていなかったためである。遺伝的な超人的“英雄”を見つけるためには、それとはまた違った“英雄”的行為が必要だろう。ゲノムデータ、臨床データを積極的に提供するという参加者の“心意気”と、世界規模でデータ共有をするために面倒な問題を厭わず乗り越えるという、研究者、規制担当者の“献身”である。」と述べている。
doi:10.1038/nbt.3514
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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