【進化】性感染症がヒトの一夫一婦制を助長した可能性
Nature Communications
2016年4月13日
社会から課せられた一夫一婦制がヒトの社会で見られるようになったのは、性感染症(STI)の流行の影響を受けてのことだった、という結論を示した研究論文が掲載される。今回の研究では、大規模なヒト集団においてSTIの伝播が拡大したことが、早期に定住した農耕民において一夫一婦制が出現した機構だと考えられることが明らかになった。
歴史上、ほとんどのヒトの社会は一夫多妻制だった。複婚制の一種である一夫多妻制において、男性は複数の女性と配偶行動をとることが許されている。一夫多妻制は、特に小規模な狩猟採集民社会で多く見られるが、定住農業の出現とともに発生した大規模な社会では一夫多妻制が少なく、罰を受けるという脅威によって社会から課せられた一夫一婦制の方が多くなっている。
今回、Chris Bauchたちは、現実的な人口統計学的パラメーターと疾患伝播パラメーターを用いて、ヒト社会におけるさまざまな社会的配偶行動規範の進化のシミュレーションを行うことで、一夫一婦制への移行に最も大きな影響を与えた要因が何だったのかを調べた。その結果分かったのは、社会の規模が大きい場合(構成員が300人以下)にはSTIの有病率が集団内で風土病のレベルに達し、出生率が低下し、一夫一婦制をとらない社会の他の構成員(と集団)を罰する一夫一婦主義者の出現に有利に働いたということだ。これに対して、小規模な社会(構成員が30人以下)でのSTIは、短期間の疾患の集団発生にとどまり、集団内で風土病のレベルに達することはなかった。従って、一夫多妻主義者の集団における出生率が高くなり、時間の経過とともに一夫多妻制が支配的な社会規範となった。
先史時代のヒト集団における疾患の流行に関しては直接調査によるデータが存在しないため、今回のシミュレーションは、ヒト社会における対照的な社会規範の出現を説明する上で役立つ可能性がある。
doi:10.1038/NCOMMS11219
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