【免疫】カーペットバイパーの抗毒素療法となる可能性
Nature Communications
2016年4月20日
カーペットバイパー(Echis carinatus)の毒による生体組織の損傷を防ぐことができる新しい治療法の可能性を示した論文が、今週掲載される。この論文には、カーペットバイパーの毒によってマウスの組織が破壊される過程の基盤となる機構に関する手掛かりも示されている。
ヘビによる咬傷は、毎年、約550万例が記録され、その結果、40万人が切断手術を受け、12万5千人が死亡している。アフリカ北部とアジアでのヘビ咬傷による死亡例の大部分は、カーペットバイパーの毒が原因となっている。現在利用可能な抗毒素療法では被害者の命を守れるが、カーペットバイパー咬傷による組織の破壊を抑制できない。具体的に説明すると、カーペットバイパーの毒は、白血球の一種である好中球を咬傷部位に誘導するが、組織の破壊において好中球が果たす役割がこれまでのところ正確に解明されていない。
今回の研究で、Kempaiah Kemparajuたちは、約10匹のマウスのグループを複数用意して、いくつかの実験を実施し、カーペットバイパーの毒をマウスの尾に注射し、この毒が好中球細胞外トラップ(NET)の形成を誘導して、好中球の自己破壊を引き起こすことを明らかにした。NETは、特異的なタンパク質と遺伝物質からなる抗菌剤だ。毒が注射されると、NETが毒を捕捉して、体内に毒が急速に分布しないようにするが、注射部位付近の血管を詰まらせて組織の破壊を促進する。Kemparajuたちは、DNアーゼ1を外部から加えることでNETを分解できることを実証した。DNアーゼ1は、NETの主要な構成要素であるDNAを分解する酵素だ。DNアーゼ1と毒素を注射されたマウスの体内ではNETの形成は起こらず、注射部位付近での毒の蓄積と組織の破壊も起こらなかったが、毒が体内に急速に広がるために死亡率が高くなった。しかし、毒素を注射してから30分後または180分後にDNアーゼ1を注射した場合には、組織の破壊が起こらなくなり、死亡率も高くならなかった。
以上の結果がヒトに妥当することが明らかになれば、特異的なタイミングによるDNアーゼ1の投与がヘビ毒による組織の破壊を防ぐ治療法となる可能性が生まれることが示唆されている。
doi:10.1038/ncomms11361
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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