エネルギーの自給を追求しても気候変動を緩和できない
Nature Energy
2016年6月7日
炭素排出量の削減は、エネルギー輸入の縮小といったエネルギー安全保障上の利益をもたらすが、エネルギーの自給を追求しても、排出量は同等には削減されないことが、今週のオンライン版で報告されている。今回、エネルギー安全保障政策と気候変動際策の関連が分析され、国家のエネルギー自給を高める政策を探すだけでは、排出量削減目標を達成できそうにないことが浮き彫りになった。
気候変動緩和政策の追求に伴って、エネルギー安全保障に利益が得られると、しばしば考えられている。その逆、つまりエネルギー安全保障を追求すれば温室効果ガスを削減できるということも、同様に正しいと主張されることが多い。
Jessica Jewellたちは、一連の最新の全球エネルギー経済モデルを用いて、エネルギー自給政策が排出量に及ぼす影響、エネルギー自給政策や気候政策がエネルギーシステムにもたらす可能性のある変化、それぞれの政策を実行する際の比較費用を評価している。その結果、気候変動と戦えばエネルギー輸入が縮小するが、エネルギーの自給を追求しても、温室効果ガスはあまり削減されない(2~15%)ことが分かった。さらに著者たちは、エネルギー輸入を抑えれば、化石燃料の使用量とエネルギー需要が削減されると思われるが、再生可能エネルギーの利用は普遍的には増加しない可能性があることも示している。
最後に、排出量削減の既存の誓約を満たすのと同程度の費用でエネルギーの自給を実現できる可能性があるが、この費用は地球温暖化を2℃に抑える費用よりずっと少ないことを、著者たちは示している。著者たちは、さまざまな気候政策の共便益の可能性を検討する際には、さまざまな政策目標の相対費用をより注意深く分析する必要があると、結論づけている。
同時掲載のNews & Views記事で、Vaibhav Chaturvediは、「Jewellたちの今回の研究は、気候政策目標の追求とエネルギー供給の確保の間のバランスを取ることを理解するのに非常に有益な貢献である」と述べている。
doi:10.1038/nenergy.2016.73
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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