【健康】外傷性脳損傷を標的とするペプチドの新規同定
Nature Communications
2016年6月29日
このほど行われたマウスの研究で、外傷性脳損傷(TBI)を標的とし、脳への治療薬の送達に利用できる可能性のあるペプチド(CAQK)が同定されたことを報告する論文が、今週掲載される。CAQKは損傷部位に蓄積するため、TBIの診断と標的療法のための重要な手段となる可能性がある。
TBIは、急性脳損傷の一種で、いわゆる「非穿通性」脳損傷(例えば、自動車事故や一部のスポーツ事故を原因とするもの)といわゆる「穿通性」脳損傷(例えば、戦時中の銃撃や榴散弾を原因とするもの)からなる。米国では年間250万人がTBIになるが、TBIから長期にわたる身体障害が起こることがあり、最悪の場合には、命を落とすこともある。TBIは社会経済的負担を伴うにもかかわらず、その診断と治療が依然として困難な状態にある。その主たる理由は、注入された医薬品や画像化プローブが血流によって損傷部位から素早く洗い流されてしまうために滞留時間が短いことだ。
今回、Erkki Ruoslahtiたちは、2匹のTBIマウスモデル(穿通性脳損傷と非穿通性脳損傷のマウスモデル)を使って研究を行い、穿通性脳損傷マウスモデルにさまざまなペプチドを静注してから、脳内の損傷部位に滞留するペプチドを単離し、それがCAQKであることを明らかにした。次いでRuoslahtiたちは、CAQKが非穿通性脳損傷マウスモデルの損傷部位にも蓄積するが、他の損傷臓器(例えば、皮膚、肝臓)には蓄積しないことも明らかにした。CAQKは、少なくとも5日間にわたって損傷部位に到達していた。さらにRuoslahtiたちは、TBIマウスモデルの脳内で大量に産生される特定のタンパク質複合体にCAQKが結合することによってCAQKの滞留が起こるという考えを示している。
Ruoslahtiたちは、培養ヒト細胞においても患者由来の損傷した脳組織の切片においても、このタンパク質複合体にCAQKが結合することを指摘している。今回の研究結果は、まだ速報にすぎないが、ナノ医薬品による治療法をTBI患者に適用する可能性が開かれた。
doi:10.1038/ncomms11980
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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