火星の月の起源
Nature Geoscience
2016年7月5日
火星の2つの小さな月であるフォボスとダイモスは、その他の多くの月の消滅を引き起こした巨大衝突の孤独な生き残りであることを示唆する研究結果が、今週のオンライン版で発表される。
ジャガイモの形をしたフォボスとダイモスは、これまでは捕獲された小惑星だと考えられてきたが、地球の月を形成したものと似た巨大衝突で形成された可能性があるとの説が唱えられている。しかしながら、なぜ火星ではそのような巨大衝突の過程で、例えば地球のように単一の大きな月ではなく、2つの小さな月が残ったのかはよく分からなかった。
Pascal Rosenblattたちは、火星の巨大衝突事象と、その結果の衝突残滓円盤の進化の数値シミュレーションを行った。Rosenblattたちは、残滓が最も高密度で充填されている円盤の内側部分により大きな月が集積することを見つけた。フォボスとダイモスが形成されたと考えられている円盤の外周部分では、残滓は薄くばらまかれており、月が容易に集積することはない。しかしながら、Rosenblattたちは、質量の大きい内側の月による重力の牽引力が外側の円盤で残滓を攪拌し、小さい外側の月が形成されることは可能であることを示した。Rosenblattたちは、質量の大きい内側の月は最終的には火星の潮汐引力に屈し、潮汐力が届く範囲で形成された他の外側の月の大部分と同様に赤い惑星に落下して、その結果フォボスとダイモスが巨大衝突の生き残りとなったことを示唆している。
また著者たちは、この筋書きは、なぜ火星が今日2つの月を持っているかだけでなく、ダイモスの軌道は安定的だがフォボスは徐々に火星に引き寄せられているので、将来的には火星はただ1つの月を持つことになる理由を説明していると結論づけている。
同時掲載のNews & Views記事でErik Asphaugは、「かつて火星の周りには多くの月が存在した可能性があり、最も重いものがシステムを形作り最も小さいものは最後に落下した。フォボスは壊れた一連の月からはぐれた最後の生き残りであり、最終段階への準備はできている」と述べている。
doi:10.1038/ngeo2742
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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