【生物学】マウスの精子から、卵での受精なしに生存可能な子孫が生じる
Nature Communications
2016年9月14日
改変した不活性な胚に注入したマウスの精子から、健康な仔が生じることが明らかになった。この結果は、これまで卵の中でしか起こらないと考えられていた精子の成熟が、卵がなくても起こりうることを示しており、このような通常に代わる発生過程がどのような仕組みで生じるのか、研究に拍車がかかるだろう。
受精では、複数の過程が組み合わさって働いて、精子と卵を胚へと変換する。受精の際には染色体とDNAのさまざまな変化が起こり(リプログラミングと呼ぶ)、精子は成熟し、分裂して生物体の全ての分化細胞をつくれるようになる(この性質を分化全能性と呼ぶ)。ただ、精子がリプログラミングによって分化全能性を獲得できるのは、卵の中でだけだというのが、一般的な見方であった。
Anthony Perryたちは、化学的に改変したマウスの胚に精子の核を注入した。この胚は、精子と卵の融合によって通常生じる2組の染色体ではなく、対になっていない1組の染色体だけを含むよう、あらかじめ化学的に処理したものだが、注入後、最初の分裂をして2個の細胞になった。こうして生じた胚は発生して、健康な仔が誕生した(ただし、誕生に至ったのは、最大でも対照群の24%)。精子ゲノムがリプログラミングされる仕組みは明らかにされていないが、改変した胚と対照の胚(核を注入しなかった胚)との間で、染色体やDNAに基づく類似性が見られるとともに細胞過程の違いも見られることから、リプログラミングの道筋は異なることが示唆される。
これらの結果は、ある状況の下では卵での精子の成熟が回避できることを示しているが、これがヒト胚にも当てはめられるというには、まだほど遠い。第一に、移植した胚の生存率が低く、第二に今回の研究はマウスの胚で行われたもので、ヒト胚にも通用するという証拠は何もないからである。
doi:10.1038/ncomms12676
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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