健康:体内移植後の成長能力を示す生物工学的に作製された血管
Nature Communications
2016年9月28日
生物工学によって作製された血管を使って3頭の仔ヒツジの肺動脈置換術が行われ、この人工血管が仔ヒツジの体内で成長能力を示したことを報告する論文が掲載される。この結果がヒトにおいて確認されれば、これまで複数回の手術を必要としていた若い患者が、手術を繰り返さなくてすむようになると考えられている。
生物工学による血管の作製で最も難しい課題の1つが、血管の設計において、移植された血管がリモデリングを起こし、免疫系によって拒絶されずに移植を受けた者ともに成長できるようにすることだ。そうした血管を作製する方法が数多く開発されているが、移植に先立って患者自身の細胞を使った血管を実験室で培養するという作業を長時間にわたって細心の注意で行う必要がある。
今回の研究でRobert Tranquilloたちが作製した血管は、保存ができ、必要な時に移植できるというもので、実験室でカスタマイズされた血管の培養を行う必要がない。この人工血管を作製するために、特殊な管の中にヒツジの皮膚細胞が置かれ、そこに細胞の増殖に必要な栄養素がリズミカルに注入された。この管がリズミカルに引き伸ばされることは、血管に適切な機械的特性をもたせるタンパク質を皮膚細胞の周囲に沈着させるうえで役立った。その後ヒツジの皮膚細胞が洗い流されると「無細胞化」したタンパク質の足場が残り、免疫反応は起こらなかった。
さらに、この無細胞化した人工血管を使って3頭の仔ヒツジの肺動脈置換術が行われたが、移植された血管は、間もなく仔ヒツジ自体の細胞によって増殖し、屈曲して、成体期まで仔ヒツジとともに成長した。その間、血栓の形成、血管狭窄や血管石灰化などの有害反応は見られなかった。
今回の実証実験では有望な結果が得られたが、今後は、実験動物の数を増やして、この外科的処置の有効性を確認し、臨床試験を実施できる程度の安全性を備えていることを明らかにするのが適切だと思われる。
doi:10.1038/ncomms12951
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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