【医学研究】ミトコンドリア病の家系において実施されたミトコンドリア置換法の有効性評価
Nature
2016年12月1日
ヒト卵母細胞のミトコンドリアに病原性変異がある場合に健康なドナーのミトコンドリアに置き換える処置を実施する小規模な原理証明研究の結果を報告する論文が、今週のオンライン版に掲載される。この論文では、ミトコンドリア病の母子感染を避ける手段としてのミトコンドリア置換法(MRT)の可能性を評価するための臨床試験を実施する際の重要な要件がまとめられている。
母から子に受け継がれるミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異は、さまざまな重症の症候群や致命的な症候群と関連している。卵母細胞にmtDNAの変異がある場合にミトコンドリアをドナーの卵母細胞に由来する健康なミトコンドリアに置き換える技術は、有害な変異mtDNAの母子感染を回避するために利用できる可能性がある。MRTの原理証明研究は、病原性mtDNA変異を持つ女性から得たmtDNAの正常な卵母細胞を用いて行われているが、mtDNA関連疾患の女性患者の卵母細胞を用いたMRTの評価は行われていない。
今回、Shoukhrat Mitalipovの研究グループは、神経疾患の一種であるリー脳症の3家系と神経変性症候群の一種であるMELASの1家系にMRTを実施した結果について報告している。Mitalipovたちは、母体紡錘体移植という技術を用い、病原性mtDNA変異を持つ母親の卵母細胞に由来する母親のDNAと紡錘体を健康なmtDNAだけを持つドナーの卵母細胞(核DNAを除去した状態)に移植し、受精させ、胚盤胞期または着床期まで培養した。
こうしてできた胚のmtDNAの99%以上はドナーのmtDNAとなり、これらの胚の大部分に由来する胚性幹細胞においてドナーのmtDNAは安定を保ったが、一部の胚性幹細胞株で母親のミトコンドリアの遺伝的プロファイル(ハプロタイプ)に逆戻りする徴候が見られた。この浮動の原因は明確になっていないが、Mitalipovたちは、mtDNAの特定の遺伝的変異(多型)が母親のハプロタイプの増幅に寄与している可能性があるという考えを示しており、MRTに適合するドナーのmtDNAを選びだす上で役立つ可能性のあるマッチングパラダイムを提案しているが、このパラダイムの検証には今後の研究の積み重ねが必要となる。
doi:10.1038/nature20592
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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