【集団ゲノミクス】現生人類のアフリカからの移動の解明に役立つ多様な人類集団のゲノム
Nature
2016年9月22日
全世界の280以上の集団の人々の高品質ゲノム塩基配列について報告する3編の論文が、今週掲載される。これらの論文では、一般に研究の進んでいない地域における遺伝的多様性が説明されており、これらが相まって現生人類のアフリカからの移動に関する新知見をもたらしている。
現生人類の集団が進化の過程で誕生地のアフリカからヨーロッパ、アジア、オセアニアへ拡大した時期と経路に関しては激しい論争がある。現在の非アフリカ人の祖先は単一の集団にさかのぼれることを示すモデルがある一方で、アフリカからの移動には複数回の波があったことを示唆するモデルもある。
David Reichたちは、大規模研究で通常取り上げられることの少ない142集団の300人のゲノム塩基配列について報告し、人類の多様性の一面を説明している。この論文では、現生人類の共通祖先の集団が分岐し始めたのが少なくとも200,000年前のことであり、その後非アフリカ人において遺伝的変異の蓄積が約5%加速したことが明らかにされており、そうなった理由として、分岐後の非アフリカ人において世代間の時間が短くなり、遺伝物質の変化率が上昇したというReichたちの考えが示されている。
一方、Eske Willerslevたちは、オーストラリア本土全体から選ばれた83人のオーストラリア先住民とパプアニューギニアの高地から選ばれた25人のゲノム塩基配列を解読した。このデータは、オーストラリアで初めてのヒトの遺伝的多様性に関する包括的な集団レベルの全ゲノム研究によるデータであり、オーストラリア先住民とパプアニューギニア人の祖先が、51,000~72,000年前にユーラシア人集団から分岐したことが示唆されており、デニソワ人や未知のヒト族集団などの古代人の遺伝物質の痕跡を明らかになっている。
さらにLuca Pagani、Mait Metspaluたちの研究チームは、ヨーロッパ人集団を中心とする125集団から抽出した379点の新たなゲノムを既存のデータセットに加えて、現代のパプア人のゲノムの少なくとも2%がユーラシア人より早期にアフリカ人から分岐した人類集団の祖先を反映していることを明らかにした。この新知見は、パプアニューギニアでの定住につながった人類のアフリカからの拡大の波が約120,000年前という早い時期にあったことを示す証拠になっている。
同時掲載されるSerena Tucci、Joshua Akey共著のNews & Views記事には以下のように記されている。「これらの研究によって人類の遺伝的多様性の特徴が高分解能で解明され、人類のアフリカからの移動に関する新たな推論を展開できるようになった。・・・これらの研究によって人類の歴史のいくつかの未解明部分が明らかになったが、・・・我々の祖先が世界中を探検し、定住するまでの足跡を十分にたどるには数多くの興味深い問題の解決が残っている」。
doi:10.1038/nature18299
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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