【気候科学】海氷の動きが引き起こす南大洋の塩分低下
Nature
2016年9月1日
過去数十年間に南大洋で海水の塩分低下が観測されているが、その大部分は南極から北向きの海氷の輸送によって説明できるという研究結果を報告するF. Alexander Haumannたちの論文が、今週掲載される。この研究結果は、基盤となるデータ源に不確実性があるものの今後の気候変動研究にとって重要な意義を有するとHaumannたちは考えている。
過去数十年間の南大洋における塩分濃度の観測結果からは、海水の塩分低下が大規模かつ広範囲に生じていることが明らかになっているが、その根底にある原因については解明が進んでいない。
今回の研究で、Haumannたちは、人工衛星による観測結果と海氷の再構築結果を併用して、海氷による北向きの淡水輸送量が1982年から2008年の間に20±10%増加したと推定し、この傾向の原因として、ロス海上空の強い南風を挙げている。次に、Haumannたちは、淡水の流入量が増えると、外洋の表層水と中層水での10年間の塩分低下速度が1キログラム当たり-0.02 ± 0.01グラムになると推定しているが、これは、観測された塩分低下速度に近い値だ。ただし、Haumannたちは、こうした塩分濃度の変化を計算する際に用いたデータセットは不確実性が大きい点に注意すべきだとし、独立した大気分析のデータと過去の地域的研究との比較を用いて今回の解析結果を補足している。
Haumannたちは、海氷の北向き輸送の変化は、海氷が生成する南極大陸沿岸の表層水から淡水が除去され、外洋の海氷縁に沿って海氷が溶ける領域に淡水が放出されることで、塩分濃度の変化の一因になっているという考えを提唱している。この過程は、深海と海洋表層との間での熱と炭素と栄養素の交換に影響し、それによって地球全体の気候に影響を与える。
doi:10.1038/nature19101
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