【神経学】マウスの脳波異常を直せばアルツハイマー病の症状が軽くなる
Nature
2016年12月8日
アルツハイマー病(AD)の特徴であるアミロイドベータ(Aβ)タンパク質の蓄積に脳内の電気信号の異常が寄与している可能性を示唆する研究論文が、今週掲載される。今回の研究は、神経回路によって生じる電気信号の振動の変化を元に戻すことで、Aβの形成が抑制され、同時に免疫細胞が活性化して脳内のAβが除去されることを明らかにしている。
脳内のニューロンのネットワークが同期して活性化すると、電気信号の振動が起こる。この脳波リズムの周波数が平均で1秒あたり40回(40 Hz)であればガンマ振動と呼ばれる。ガンマ振動は、高次認知機能と感覚応答に重要なものと考えられており、ADなどさまざまな神経疾患においてガンマ振動が破壊されていることが従来の研究で明らかになっている。しかしガンマ振動が神経疾患の病理にどのような影響を与えているのかについては明らかになっていない。
今回、Li-Huei Tsaiの研究チームは、確立されたADのマウスモデルの神経活動を記録して、Aβが蓄積してアミロイド斑を形成する前の時点と認知機能の低下が認められる前の時点でガンマ振動が低下することを明らかにした。次にTsaiたちは、光遺伝学的(光媒介)技術を用いて、ADのマウスモデルの海馬のニューロンを直接刺激して、ガンマ振動を引き起こしたところ、この脳領域におけるAβの産生が減少し、脳の免疫細胞であるミクログリアが活性化して、Aβが除去された。今回の研究で、Tsaiたちは、LED光を40 Hzで明滅させて、マウスの一次視覚野でガンマ振動を誘発する非侵襲的な方法を考案した。この非侵襲的な方法を用いることで、初期ADのマウスの視覚野においてAβの濃度が低下し、後期ADの老齢マウスの視覚野におけるアミロイド斑の量が減った。
以上の観察結果をまとめると、Aβの総量が減少したことが、Aβ形成量の減少とミクログリアによるアミロイド除去量の増加を介したものであることが示唆されている。しかし、Tsaiたちは、ガンマ振動を用いた治療法が、従来のAD治療法とは根本的に異なる方法となる点を指摘しており、この手法がヒトにとって有効なのかどうかを見極めるために研究を積み重ねる必要がある。
doi:10.1038/nature20587
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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