【合成生物学】マウスに投与する治療薬として作製された細菌
Nature
2016年7月21日
細菌が閾値菌体密度に同調した周期で抗がん剤を放出できるように改変し、この細菌をがんのマウスモデルに投与できることを明らかにした論文が、今週のオンライン版に掲載される。このシステムは、細菌コロニーの周期的溶解(細胞分解)によって細菌集団を制御することもできる。
細菌を改変して「生きている」治療薬として利用することに関心が高まっているが、宿主生物の体内でのさまざまな応答とこの治療薬システムの長期的有効性については、さらなる評価が必要となっている。
今回、Jeff Hastyたちは、合成生物学的手法を用いて、腫瘍を標的とするサルモネラ菌株が保持する薬物の放出を制御する遺伝子回路(互いの発現に影響し合う遺伝子の一群)を作製した。この遺伝子回路では、閾値菌体密度に同調した細胞溶解が周期的に起こって、薬物送達の有効性が最大限引き出されている。Hastyたちは、マウスの大腸腫瘍において、この細菌集団の動態を追跡調査し、その後、大腸がんのマウスモデルにこの細菌株を単独で経口投与し、または臨床化学療法薬と組み合わせて経口投与した。その結果、回路を作製した細菌と化学療法を組み合わせると、いずれか一方だけの場合と比べてがん活性が低下し、生存期間も長くなった。
この方法は、さまざまな合成生物学ツールを活用して、疾患に冒された体内部位に特定の細菌が定着する傾向を利用する上で役立つとHastyたちは考えている。ただし、細菌を有効な抗がん治療法として利用できるようになるまでには、さらに研究を重ねる必要がある。「細菌にはこうした特徴があるが、(改変されたか否かにかかわらず)細菌単体で腫瘍が消退する可能性は低い」と同時掲載されるShibin Zhou のNews & Views記事では説明されている。
doi:10.1038/nature18930
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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