【進化】男性より女性に対する毒性が弱い病原体
Nature Communications
2016年12月14日
女性が感染すると男性より症状が軽くなり、致死率も低くなるように適応したと考えられる病原体について報告する論文が、今週掲載される。女性が集団内の他の構成員に病原体をうつす際には、男性と同じ経路に加えて、妊娠、出産と授乳を通じて子にうつすという経路がある。今回の研究では、この病原体の伝播の機会が男性より女性の方が多いため、この病原体に性特異的な毒性を進化させるために十分な進化圧が加わった可能性のあることが明らかになっている。
特定の病原体感染症の重症度に性差が見られるのは、男性より女性の免疫応答の方が強いからだと研究者は考えてきた。これに対して、今回のFrancisco UbedaとVincent Jansenの論文には、別の説明が示されている。つまり、男性より女性における伝播経路が多い病原体にとっては、感染した女性の症状を軽くするように進化することが有効な進化戦略だというのだ。Ubedaたちは、この新知見によって、ヒト T リンパ球向性ウイルス 1(HTLV-1)感染症から成人T細胞白血病(ATL、血液がんの一種)への進行の性差が集団によって異なっていることを説明できる可能性があると考えている。例えば、カリブ海地域ではHTLV-1感染症からATLへの進行頻度に性差は見られなかったが、日本では男性の進行頻度の方が高かった。日本は、カリブ海地域と比べて、赤ん坊を母乳で育てる女性の割合が高く、授乳期間もカリブ海地域より長い。
Ubedaたちは、男性よりも女性における伝播の機会が多く、女性の方が宿主としての価値が高い場合には、病原体にとって、女性が感染した場合の症状を男性より軽くすることが進化の観点から妥当だとする考えを示している。
doi:10.1038/ncomms13849
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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