【遺伝】ガの翅の色を暗くしてチョウの翅を色彩豊かにするcortex遺伝子
Nature
2016年6月2日
チョウとガの翅の色と色彩パターンを生み出す単一の遺伝子が、2つの独立した研究によってそれぞれ同定されたことを報告する2編の論文が、今週掲載される。この遺伝子とそれに関連する変異が、産業革命時に起こったオオシモフリエダシャク(Biston betularia)の翅の暗化を制御し、特定のチョウ種の自然の色彩パターンの多様性の原因となっていることが2つの研究で明らかになっている。
工業都市の勃興によってオオシモフリエダシャクの翅が暗化したことは良く知られており、それは環境汚染と鳥類による捕食に対する適応応答だった。ところが、一般的だった薄い翅色の標準型(typica)がそれまで知られていなかった黒い翅色の暗化型(carbonaria)に置き換わる原因となった特定の遺伝子変異については、これまでの研究で大体の位置しか特定されておらず、13個の遺伝子を含むDNA領域に作用する点が判明しているにすぎない。
今回、Ilik Saccheriたちは、オオシモフリエダシャクの暗化型の遺伝学的背景を解明し、配列変異を正確に同定した。この変異が生じた原因は、DNA配列の大部分がcortex遺伝子に挿入されたことだった。また、系統発生解析も行われ、この変異の起源が、産業革命が始まっていた1819年頃であることが判明した。これとは別に、Nicola Nadeauたちの研究グループは、集団ゲノミクスと遺伝子発現解析を利用して、cortex遺伝子の発現がHeliconius属のチョウの色彩パターンに応じて変化することを明らかにした。以上の新知見を総合すると、鱗翅類(ガとチョウが含まれる)の色彩パターンの基盤となる新たな基本機構が存在している可能性が示唆されている。
doi:10.1038/nature17951
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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