【がん】一般的に使用できるがんワクチンの実現に一歩前進
Nature
2016年6月2日
ウイルス感染に対する免疫系の応答を利用し、がんと闘うように免疫系を誘導するRNA含有ナノ粒子ワクチンについて報告する論文が、今週のオンライン版に掲載される。今回の研究では、マウス腫瘍モデルと進行黒色腫患者3人において、このワクチンが抗腫瘍性免疫応答を引き起こしたことが明らかになった。この研究成果は、がん免疫療法で一般的に使用できるワクチンの実現に向けた一歩となる可能性がある。
今回、Ugur Sahinたちは、RNAが脂質(脂肪酸)膜に覆われており細胞膜に似た状態のRNA-リポプレックスナノ粒子からできたワクチンを静脈内投与して、マウスの免疫系細胞の一種である樹状細胞に送達した。その結果分かったのは、このナノ粒子の正味の電荷がわずかにマイナスになるように調整するだけで樹状細胞への効率的な送達を実現できることだ。このリポプレックスは、RNAが体内で分解されないように保護する作用があり、脾臓、リンパ節、骨髄の樹状細胞とマクロファージにRNAが取り込まれる際に関与しており、こうして取り込まれたRNAは、がん特異的な抗原に翻訳される。
Sahinたちは、これが、いくつかのマウス腫瘍モデルにおいて強力な抗原特異的なT細胞応答を引き起こすとともに、インターフェロン-α(IFNα)に依存する進行性腫瘍の強い拒絶にも関係していることを明らかにした。また、Sahinたちは、このワクチンのヒト第I期用量漸増試験の速報結果から、低用量での治療を受けた3人の黒色腫患者に強いIFNα応答と抗原特異的なT細胞応答が生じることも明らかにしている。ほぼ全てのタンパク質からなる抗原をRNAにコードさせることができることから、RNA含有ナノ粒子ワクチンががん免疫療法において一般的に使用できるワクチンにふさわしいものとなる可能性があるとSahinたちは結論づけている。
doi:10.1038/nature18300
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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