【発生生物学】培養したヒト胚の初期発生を追跡観察する
Nature
2016年5月5日
培養条件下でヒト胚の発生の初期段階を最長10~13日間調べた結果を報告する2編の論文が、今週、NatureとNature Cell Biologyに掲載される。ヒト胚が、シャーレで培養された状態であっても自己組織化(細胞分裂と形状再構成が関係する過程)を行い、その際の変化が、母体からの合図によって生じる変化と類似していることが、これら2つの研究で明らかになった。
ヒト胚の発生のごく初期の段階についての研究が行われたことはあるが、これまでのところ、シャーレの中のヒト胚を発生7日目(ヒト胚が通常子宮内に着床する時期)まで維持することは困難だった。Natureに論文が掲載されるAli BrivanlouたちとNature Cell Biologyに論文が掲載されるMagdalena Zernicka-Goetzたちは、シャーレの中のヒト胚が自己組織化できることを明らかにした。いずれの研究グループもZernicka-Goetzたちが開発したマウス胚の培養法を用いて、最長で発生10~13日目に起こるさまざまな現象(細胞分裂が進行する胚段階である胚盤胞の形成から胚が子宮壁[培養条件下では着床基材]に着床してからの着床後期まで)について報告している。両グループの観察結果は、細胞種指定や組織構築などマウス胚とヒト胚の発生の違いを明らかにしている。
両グループが行った実験は、国際的に認められたガイドラインに従い、発生14日目まで、または原始線条という細胞系統が形成されるまで実施された。今週、Natureに掲載されるInsoo Hyun、Amy Wilkerson、Josephine Johnston のComment記事では、この14日ルールが、厳しい制限を課した上で胚の研究を許可する場合には効果的だったと説明されており、その理由としては、これまで科学者がこのルールを破ることが技術的に困難だった点が指摘されている。Hyunたちは、このルールは「ヒト胚が道徳的地位を得る時点を示す明確な一線を引くことを目的としていなかった」点を強調し、むしろ「科学研究の余地を作り出し、それと同時にヒト胚の研究に関する国民の意見の多様性を尊重するための公共政策手段だった」と述べている。科学の発達とその潜在的利益を踏まえたルール変更の決定を行うか否かは、ルール変更によってこの2つの主要な目標をどれだけ達成できるかにかかっている、とHyunたちは主張している。Hyunたちは、今後の合意形成過程に専門家と政策立案者、患者、関心を有する市民を参加させることを提言している。
doi:10.1038/nature17948
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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