【遺伝子治療】CRISPR/Cas9法による遺伝コード中の一塩基の編集
Nature
2016年4月21日
遺伝コード中の1個の塩基に狙いを定めて修正する方法が改良され、ゲノム配列におけるランダムな挿入や欠失を起こさなくなったことを報告する論文が掲載される。この新しい「一塩基編集法」は、他の2種類のタンパク質と結合するように操作された組換えCRISPR/Cas9タンパク質を用い、現行の方法より一塩基の変異を修正する効率が高く、培養細胞に用いて遅発性アルツハイマー病や乳がんなどの疾患に関連する一塩基変異を修正することに成功している。
大部分の遺伝性疾患は、1個のヌクレオチドの変異(点変異)によって生じる。ゲノム編集に現在幅広く用いられているCRISPR/Cas9法は、DNAの2本の鎖を切断し、標的のDNA塩基配列に二本鎖切断を形成する。しかし、標準的なCRISPR/Cas9法を1個のヌクレオチドの修正に用いると、通常は効率が悪く、主に二本鎖DNA切断に対する細胞応答の結果として、標的部位にランダムな挿入や欠失(「インデル」と総称される)を生じることが多い。
今回、David Liuたちは、インデルの頻度を最小限に抑えつつ点変異を修正する効率を高めるため、Cas9タンパク質を修飾してDNAの2本鎖切断を起こさずに標的DNA配列と結合するようにした。Liuたちは、塩基修飾酵素(APOBEC1)をCas9に付加することで、シトシン(C)をチミン(T)の塩基対形成特性を有するウラシル(U)に直接変換した。そして、Liuたちは、こうして編集された塩基対を細胞内で永続させるため、第3のタンパク質を用いて正常な細胞のDNA修復過程を操作して、標的としたC:G塩基対をT:A塩基対に変換した。Liuたちは、この一塩基編集システムを用いて、マウスとヒトの細胞株においてヒトの疾患に関係するさまざまな点変異を効率的に修正し、インデルの形成を最小限に抑えることができることを明らかにした。
また、同時掲載される別の2編の論文は、CRISPRによるゲノム編集にCas9の代わりに使えるCpf1酵素の機構と構造に関する新たな情報をもたらしている。Emmanuelle Charpentierたちは、Cpf1がCas9と異なり、選択的ゲノム編集に必要なRNAプロセシング活性とDNA切断活性を発揮でき、配列特異的なゲノム操作とサイレンシングの新たな方法に道を開く可能性のあることを明らかにした。また、Zhiwei Huangたちの論文では、RNAと結合したCpf1タンパク質の結晶構造について報告されており、Cpf1がRNAと結合すると、Cpf1の形状がどのように変化するのかが説明されている。
doi:10.1038/nature17946
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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