【免疫】ヒトの成人の免疫系を得るために実験用マウスとペットショップのマウスを混ぜて飼育する
Nature
2016年4月21日
生物医学研究に用いられる主要な動物モデルである実験用マウスの免疫系は、ヒトの成人よりも新生児の未熟な免疫系に類似していることを報告する論文が、今週掲載される。異常に衛生的な環境で生息する実験用マウスとペットショップの「不潔な」マウスを混ぜて飼育することが、数多くの疾患の研究をヒトに生かすためのマウスモデルの改良に役立つ可能性があることが今回の研究で示唆されている。
マウスの研究は、ヒトに使うことが技術的あるいは倫理的に可能でない実験法の利用を可能にして、健康時と疾患時の免疫系の役割に関する重要な情報をもたらしてきた。しかし、マウスの研究で開発された数多くの治療法が、ヒトにおいて効果を示していない。
今回、David Masopustたちは、実験用マウスが飼育される無菌環境が免疫系の構成と感染症に対する免疫系の応答に及ぼす影響を調べた。まず、従来の実験用マウスが有するCD8+ T細胞の数が、閉経前の成人女性より有意に少ないことが分かった。次に、Masopustたちは、自由生活する野生のマウスと営利目的のペットショップのマウスにおけるCD8+ T細胞の数を調べ、この違いが実験用マウスに特有なものであることを確認した。極度に衛生的な条件下で飼育されていないペットショップのマウスと実験用マウスを混ぜて飼育したところ、実験用マウスの免疫細胞系譜が大きく変化して、ヒトの成人の免疫特性に似るようになった。ペットショップのマウスと混在飼育されたマウスは、細菌感染に対する応答が実験用マウスの10,000倍以上改善し、細菌感染に対するワクチンを接種していた実験用マウスの対照群の応答と一致していた。
Masopustたちは、今回の研究が実験用マウスを使った研究の中止を支持しているわけではないと説明している。むしろ、現在のマウスモデルに「不潔な」マウス(例えば、野生のマウスやペットショップのマウス)を混ぜることで、マウス研究で得られた知見のヒトへの橋渡しを改善できる可能性があるとMasopustたちは主張している。
doi:10.1038/nature17655
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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