【がん】乳がんの転移に関与する別の経路
Nature
2016年12月15日
乳がんの過程における腫瘍細胞の早期播種の根底にある機構について説明した2編の論文が、今週のオンライン版に掲載される。いずれの論文も早期播種性がん細胞(eDCC)の方が、後期段階において腫瘍から転移する細胞よりも効率的に遠隔組織に定着する能力が高いことを明らかにしている。この新知見は、早期播種性がん細胞を標的として転移を防ぐ可能性のある新たな治療法の開発に役立つと考えられている。
転移は、がん関連死の主たる原因であり、これまでの研究で転移性播種が腫瘍形成の初期段階で起こることが多いことが示されているが、その根底にある機構はよく分かっていない。
Christoph Kleinの研究グループは、HER2陽性乳がんのマウスモデルにおける転移を研究した。その結果、低密度の病変から早期に移動した細胞の方が、高密度の進行した腫瘍に由来する細胞よりも多く移動し、より多くの転移巣を形成したことが判明した。注目すべきなのは、転移巣の少なくとも80%が早期播種性がん細胞に由来していた点だ。Kleinたちは、プロゲステロン(ホルモンの一種)が初期の病変からのがん細胞の移動の引き金として関与し、進行した原発性腫瘍細胞の増殖の促進にも関係していることを明らかにした。
一方、Julio Aguirre-Ghisoたちの論文では、初期の乳がん病変において、明らかな原発性の腫瘍塊が検出可能になる前から初期のHER2陽性浸潤がんが存在し、それがその後他の器官に播種することが示されている。また、Aguirre-Ghisoたちは、HER2タンパク質の役割について、休眠期間後に転移巣を形成する能力を持つ早期播種性がん細胞を生成するシグナル伝達経路を活性化させる役割を果たしていることを明らかにした。
同時掲載のCyrus GhajarとMina BissellのNews & Views記事では、上記2研究で示された機構が全ての乳がんサブタイプやその他のがん全体に当てはまるわけではないという可能性を指摘している。それでもGhajarとBissellは、この2つの研究から得られた知見が「特に早期播種が確認されている皮膚がん、膵臓がんに関して早期播種性がん細胞と転移との間の因果関係を研究するための一般的枠組みとなる」と結論づけている。
doi:10.1038/nature20785
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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