【神経科学】リスクを好むラットの脳内で起こっていること
Nature
2016年3月24日
このほど行われたラットの研究で、リスクの高い決定を行う際に特定の脳細胞集団が関与していることが明らかになった。この脳細胞集団の活動を調節することで、リスクを好むラットがリスクを嫌うラットに変わることが、今週のオンライン版に掲載される論文で明らかにされている。
リスクを受け入れるかどうか(リスク選好)には個人差があり、同一人物でも時期によって差がある。しかし、こうした差異に対する脳内の原因が何であるのかは分かっていない。ところで、2型ドーパミン受容体(D2R)を発現する細胞がリスクの高い決定を制御する何らかの役割を果たしている可能性が生じている。これまでの研究で、D2Rを標的とする薬を服用するパーキンソン病患者に病的ギャンブリングが増えていることが明らかになっているからだ。
今回、Karl Deisserothたちは、ラットを用いて、人間の行動と同じようにリスクを愛好するモデルを開発し、側坐核内のD2Rを発現する細胞がリスク選好の要因になっていることを明らかにした。Deisserothたちの実験では、ラットに「安全」レバーと「高リスク」レバーを示して、どちらかを選べるようにした。安全レバーを押すと、常に少量のショ糖が報酬として得られ、高リスクレバーを押すと、大きな報酬が得られる時(好ましい結果)と何も得られない時(好ましくない結果)があった。この時、D2Rを発現する細胞は、意思決定期の適切な時期において、過去の選択によって好ましくない結果が生じたことを示すシグナルを伝達した。このシグナルは、リスク愛好型ラットよりリスク回避型ラットで強く、ラットがその後の実験で安全レバーと高リスクレバーのいずれを選ぶのかをこのシグナルによって予測できた。また、意思決定期にD2Rニューロンを光遺伝学的に刺激した(光を介して刺激した)ところ、リスク愛好型ラットの高リスクレバーの選択回数が減ったが、リスク回避型ラットには何の変化も見られなかった。
今後の研究では、D2Rを発現する側坐核細胞の中に、リスクの高い決定を行うこととの特異性がもっと高い要素を含む細胞があるかどうかを調べることとなるかもしれない。
doi:10.1038/nature17400
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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