【神経科学】パーティーの喧騒の中で相手の声を聞き取るための脳内機構
Nature Communications
2016年12月21日
ヒトが騒がしい環境の中で単語や文章を知覚できるのは、脳の聴覚野において急激な変化が絶えず起こっているためであることを明らかにした2編の論文が、今週、掲載される。うるさい室内で1つの会話に集中できることをカクテルパーティー効果という。第1の論文では、複数の単語の特定の部分を雑音に変えて聞かせた実験で、聴覚野の1つの領域の働きによってリアルタイムで雑音の部分に本来の音声を補充されたことが報告されている。第2の論文では、過去に1つの語句を体験していたために聴覚野において急激な変化が起こり、雑音のために全く聞き取れなくなっていた単語と文章を理解できるようになったことが明らかになっている。
今回、Edward Changの研究チームは、1つの重要な文字や音だけが異なる2つの単語の組み合わせ(例えば‘faster’と‘factor’)を作り、この重要な音を雑音に変えて5人の被験者に聞かせる実験を行い、被験者は、それぞれの試行で、いずれかの単語が聞こえたと申告した。また、被験者がこうした刺激を聞いている際に皮質ニューロンの直接的活動が記録された。その結果分かったのは、上側聴覚野において、雑音を加えられた音声刺激に対する神経応答が過去に知覚された完全な音声(雑音を加えられる前の状態)に対する神経応答と非常に良く似ていることだった。この結果は、聴覚野がリアルタイムで欠落した音声を補充していることを示している。注目すべきなのは、どの単語が聞こえたのか、という被験者の申告内容が、雑音が始まる前の脳の高次認知機能領域出の神経活動によって予測できることも分かったことだ。この観察結果からは、脳内の神経状態がその後の発語の知覚を大きく偏らせ、影響を与えることが示唆されている。
一方、Christopher Holdgrafの研究チームは、脳内での発語信号の処理のされ方が言語経験によって急激に変化する過程を調べた。(てんかん治療のために)電極を埋め込まれた7人の患者に複数の文章の録音を聞かせる実験が行われ、明瞭に聞き取れる文章と雑音とともに録音して当初から聞き取れないようにした文章の両方を聞かせた。雑音が混ざった文章を先に聞かせた場合には、患者は、文章を理解できず、その脳は、この発語信号を雑音として処理していた。これに対して、明瞭に聞き取れる文章を先に聞かせた場合には、聴覚野の活動が変わり、発語信号が増強された。この変化により、雑音を含んだ音声刺激の処理過程が変化し、これまで理解不能だった文章を容易に理解できる程度にまで発語信号が増強されたのだった。この2つの研究によって得られた新知見は、ヒトの聴覚野が経験に応答して急激に変化し、こうした動態によって発語の知覚が増強されることを明らかにしている。
doi:10.1038/ncomms13654
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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