妊娠によって女性の脳の構造が変わる
Nature Neuroscience
2016年12月20日
妊娠すると脳の構造が変化し、それが少なくとも2年間持続することが、妊娠、出産を初めて経験した25人の女性を対象とした研究で明らかになった。変化したのは社会的認知に関係する脳領域で、自分の子(乳児)の画像に応答した。さらには、この変化の程度から母親の子への愛着の度合いを予測することができた。こうした研究成果を報告する論文が、今週のオンライン版に掲載される。
妊娠すると、ホルモンの濃度が急上昇するため、体に急激な生理的変化と物理的変化が生じる。それほど急激でないホルモンの変化(例えば思春期のホルモン変化)があっても脳の構造と機能が変化することが分かっているが、妊娠によって女性の脳の構造がどのように変化するのかという点は解明されていない。
今回、Elseline Hoekzemaの研究チームは、妊娠、出産を初めて経験した25人の女性を妊娠前後の両方の時点で調べて、妊娠によって起こる脳の灰白質の構造変化を解明する前向き研究を計画し、実施した。この25人の女性は、初めて父親になった男性19人、子どものいない男性17人、出産経験のない女性20人と比べて、心の理論(自分自身または他人に思考、感情、意図などの心的状態があることを理解する能力)に関連する脳領域の灰白質が少なくなっていた。この構造変化のパターンを用いることで、出産経験のある女性の脳と出産経験のない女性の脳を区別することができ、出産後の乳児への愛着の質を予測することも可能になった。また、出産後の女性に自分の子(乳児)の写真を見せる実験では、他の乳児の写真を見せる場合と比べて、妊娠によって変化した脳領域の一部で神経活動が高くなっていた。その後行われた神経画像検査では、妊娠、出産を初めて経験した女性における灰白質の減少が、ほぼ全ての脳領域で出産後約2年間維持され、記憶に関連する脳領域である海馬だけで灰白質の容積が一部回復していたことが明らかになった。
今回の研究は、初めての妊娠による女性の脳の構造と機能の大きな変化を解明する第一歩になった。この大きな変化は、まもなく母親になる女性が、母親に対する社会の要求に対応するための準備段階である可能性があるとHoekzemaたちは考えている。
doi:10.1038/nn.4458
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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