【動物行動学】チンパンジーは思ったほど仲間を助ける行動をとらない
Nature Communications
2016年12月21日
チンパンジーは、ヒトと違って、生まれつき他者を助ける行動をとる傾向はなく、他のチンパンジーの役に立つかどうかにかかわらず特定の行動をとることが明らかになった。この新知見は、社会的行動をとるようになり、他者への親切心を形成する過程がヒト独自のものであることを示唆している。この研究成果の報告が掲載される。
進化上の祖先である非ヒト霊長類のさまざまな種を野生状態で観察している研究者が、親切な行為、協力的な行為、他者を助ける行為が観察されたことを報告してきている。例えば、互いを毛繕いする行為、戦っている個体に加勢する行為、生息地の境界を監視して群れの成員の安全を図る行為などだ。同様の観察結果は、訓練されたサルについても得られているが、こうした行動が他者を助けるために行われるのか、こうした行動によって後から生じる恩恵のためなのかは分かっていない。
今回、Keith Jensenの研究チームは、チンパンジーを対象として、いわゆる向社会性行動の程度を調べるため、13匹のチンパンジーに木製の止め釘を抜き取る行動を学習させた。そして、6匹のチンパンジーの場合には、止め釘を抜き取ると、目の前にいる知り合いのチンパンジーが食料を手に入れられるようにし、残りの7匹のチンパンジーの場合には、止め釘を抜き取ると、他のチンパンジーが食料を入手できなくなるように実験を組み立てた。13匹のチンパンジーには、止め釘を抜き取る行動が別のチンパンジーの役に立つのか、邪魔をするのかを見えるようにしたが、13匹のチンパンジーの行動に差はなかった。その後行われた追試では、チンパンジーを隣接するチンパンジーのケージに入れるようにした。止め釘を抜き取ると自分自身の採餌量に明白な影響が出るようにしたところ、チンパンジーの行動が変わり、止め釘を抜き取ると食料が得られる場合には止め釘を抜き取るようになり、止め釘を抜き取ると食料を受け取れなくなる場合には止め釘を抜き取らなくなった。
以上の結果をまとめると、向社会性行動を示す証拠とされたものが実験計画の副産物であり、他者を助けるということが幻想にすぎなかったことが示唆されている。
doi:10.1038/ncomms13915
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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