神経科学:コカインの報酬効果に性特異的な差異が見られる理由を説明する
Nature Communications
2017年1月11日
コカインの報酬効果は、雄のマウスや発情間期(性的に不活発な期間)の雌のマウスと比べて、(生殖周期の発情期にある)さかりがついた雌のマウスで増加していることを報告する論文が掲載される。今回の研究では、こうした応答に関係すると考えられる脳の報酬回路の構成要素が同定されており、コカインの報酬処理に性特異的な差異が見られることの神経基盤を解明する上で役立つ可能性がある。
ヒトの場合、男性も女性も乱用薬物(コカインを含む)に依存するようになることがあるが、この点に性差があることを示す証拠が存在する。例えば、女性は、薬物への渇望と依存症再発を起こしやすいと考えられているが、コカインに対する女性の生理的応答と自覚的応答が月経周期の段階に応じて変動することを示す証拠がある。また、動物モデルを用いた研究では、薬物の報酬効果が卵巣ホルモンに依存した変動を示すことが示唆されているが、その根底にある神経基盤は解明されていない。
今回、Ming-Hu Han、Eric Nestlerたちの研究チームは、マウスのコカイン嗜好性を評価する研究を行い、1つの環境からコカインを連想し、もう1つの環境から生理食塩水を連想するようにマウスを訓練した。その後、コカインを使わずに実験を行ったところ、マウスがコカインを連想させる環境で費やした時間が生理食塩水を連想させる環境より長くなった。こうした居場所の選好性は、コカインの報酬効果の間接的な指標と考えられている。また、今回の研究では、上述した訓練を発情期に受けた雌のマウスが、雄のマウスとこの訓練を発情間期に受けた雌のマウスと比べて、コカインを連想させる環境を好む傾向が顕著なことも判明した。次に、この研究チームがマウスの脳を調べたところ、脳の報酬回路の重要な要素であるVTAドーパミンニューロンの活動が、発情期の雌のマウスにおいて高くなっており、これによって報酬回路に分子的な変化が生じ、その結果としてコカインの報酬効果が増加したことが分かった。こうした新知見は、コカインの報酬効果の処理に見られる性差の根底にあるのが、脳の報酬回路の活動と動態であることを示唆している。
doi:10.1038/ncomms13877
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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