知識バンクががん治療を改善する可能性
Nature Genetics
2017年1月17日
がんの治療法の決定に大規模な患者データベースを利用すれば、患者の生活の質が改善され、しかも医療費の削減も行えるという可能性が報告された。急性骨髄性白血病(AML)の患者データの解析を行い、精密医療(precision medicine)の成果を利益に結び付けるための研究の第一歩となるだろう。
プレシジョン医療は、患者の遺伝的プロファイルおよびその他の患者独自の特徴に合わせた治療を行うことを目指している。この目標のためには、患者情報が登録された大規模なデータベース(知識バンク)が必要となる。
今回、Hartmut Döhner、Peter Campbellたちの研究チームは、AML患者1,540人のデータが登録された知識バンクを用いて解析し、患者の生存を予測するアルゴリズムを開発した。そしてこのアルゴリズムを使い、個々の患者が最初の完全寛解の際に造血幹細胞移植を受けて恩恵が得られるかどうかを予測した。造血幹細胞移植は、患者の生存率を著しく高めるが、リスクも高く、移植関連死亡率が最大25%となっている。その代わりに実施されている集中化学療法は、死亡のリスクがかなり低くなる一方で、他の重大な合併症の高いリスクを持つ。Döhnerたちは、知識バンクを用いることで、生存率を1.3ポイント引き上げ、造血幹細胞移植を受けるAML患者数を20~25%減らせると推定している。つまり、AMLの治療に知識バンクを利用することで造血幹細胞移植を受ける患者数を減らすことができ、その結果、致命的な合併症を避けることを通じて患者の健康を維持・改善するとともに、高額の費用(10~20万ドル、約1100~2200万円)を避けることを通じて医療費を節減できる、とDöhnerたちは報告している。ただし、知識バンクそのものには高額の費用がかかり、維持管理が難しいこともDöhnerたちは指摘している。知識バンクによって得られる利益が費用を上回るかどうかはまだ分かっていない。
doi:10.1038/ng.3756
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