血小板がマウスのがん細胞に対する免疫療法を導く
Nature Biomedical Engineering
2017年1月24日
傷口での血液凝固で働く血小板を利用することによって腫瘍切除部位への抗がん薬送達が可能になるという論文が、今週掲載される。今回のマウスでの前臨床試験は、あらゆる残存がん細胞の根絶、腫瘍の再増殖の停止、およびがん細胞の拡散の予防を目的として、創傷に対する生体の自然な反応が利用できることを示している。
がんの診断例には、原発巣の切除が治療の優先的選択肢であるものが多い。しかし、腫瘍切除後、周辺組織にわずかでもがん細胞が残存すると、多くの場合他の臓器への転移として、何カ月か後にがんの再増殖を生じることがある。血小板は、創部に自然に集積するとともに、血流中を循環する腫瘍細胞と相互作用する。抗体を利用して免疫系を活性化させることでがん細胞を攻撃する免疫療法は、個々のがん細胞を殺すために利用することができるが、移動するがん細胞のもとへそのような抗体を効率的に送達することは困難である。
Zhen Guたちは、マウスから血小板を取り出し、免疫療法用の抗体、プログラム細胞死リガンド1抗体(抗PDL1)を結合させた後、マウスに再導入した。その結果、原発がんの切除後、表面に抗PDL1を結合させた血小板は切除部位に移動して、この抗体を放出することが明らかになった。また研究チームは、これががんに対するマウスの免疫反応を強化し、がんの再発防止に有効であることを示した。最後に、血小板が、転移巣の形成に先立って、血中を循環するがん細胞を認識することも示した。ただし、この方法をヒトで実際に試したり、臨床化したり、ほかの種類の免疫療法に応用したりできるようになるまでには、さらに研究を重ねる必要があるという。
doi:10.1038/s41551-016-0011
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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