【生物科学】高地に順応する方法を「記憶」している血液細胞
Nature Communications
2017年2月8日
ヒトは最初の登山より2度目の登山の時の方が素早く高地に順応できるのが一般だが、その原因は、赤血球が前回の登山を「記憶」しており、再度の登山時には素早く適応できる点にあるとする研究報告が、今週掲載される。今回の研究では、この応答に関係する重要な分子経路がマウスとヒトの両方で同定されたが、これが低酸素症(生体の組織に十分な酸素が行き渡らない状態)の有害な影響を軽減するための治療法にとって有益な情報となる可能性がある。
私たちの体は、低酸素状態を生き延びるために適応応答を起こして、体内組織への酸素供給を促進する。そうした適応応答の1つがアデノシンという化学物質の放出で、これによって血管漏出が防止され、炎症が軽減され、血管が拡張して組織の損傷が減る。これまでの研究では、高地に繰り返して行くことで低酸素環境への適応が加速されることが明らかになっていたが、このように応答が増進することの分子基盤は分かっていなかった。
今回、Yang Xiaの研究チームは、アデノシンシグナル伝達を増強する重要な構成要素が発見されたことを報告している。この研究で、高地に移動したヒトと低酸素環境下のマウスの両方において、赤血球タンパク質の1つであるeENT1が分解されていることが明らかになった。eENT1が失われると、アデノシンが血漿中に急速に蓄積し、低酸素症による組織損傷が抑制された。(ヒトの場合には)最初の登山時によるeENT1の減少が2度目の登山でも起こり、この赤血球による「低酸素症の記憶」が順応の加速につながった。
Xiaたちは、eENT1分解経路を治療標的とすることが、低酸素症の有害な影響と闘う活動の指針になる可能性を示している。低酸素症は、高地への登山時だけでなく、一定範囲の疾患(例えば、心血管疾患や呼吸器疾患)においても起こる可能性がある。
doi:10.1038/ncomms14108
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