【経済学】金融システムは複雑性が高まると安定性が損なわれるおそれがある
Nature Communications
2017年2月22日
市場の統合と多様化という2つの過程は、銀行間の相互作用を増大させるが、金融システムを不安定な方向に向かわせる可能性があるという研究結果の報告が、今週掲載される。この2つの過程は、金融システムの安定性を高めるものと考えられていたが、今回の研究では、銀行の金融ネットワークに複雑な周期的構造が生じると金融危機が急速に増幅される可能性が生じることが示唆されている。
国際金融システムの安定性の評価は、規制当局が健全性審査(ストレステスト)を通じて実施しているが、健全性審査では、通常、個々の金融機関が単独で評価される。一方、銀行ネットワークでは銀行相互の関係がますます深まっており、これが金融危機の蔓延と増幅につながる可能性がある。ところが、こうした集合的影響は、金融機関の個別評価からは予測できない。
今回、Marco Bardosciaの研究チームは、数理モデルと約50行の銀行の貸借対照表に示された生データを用いて、金融システムの複雑性を高めることがシステム本来のロバスト性を高めることにならない可能性を実証した。今回の研究で、Bardosciaたちは、金融機関とその相互の契約によって生じるネットワークの特徴のうちの特定のものに不安定化作用があることを明らかにした。つまり、金融システムに参加する銀行を増やし、銀行間の結び付きを増やすと、個々の金融機関が複数の契約周期に参加することになり、これが金融ショックの影響を増幅する可能性があるというのだ。Bardosciaたちは、こうした知見が、生態系において複雑性の増加(種間の相互作用の増加)によって安定性が損なわれることがあるという観察結果と類似していることを指摘している(かつては生態系において種間の相互作用が増加すると安定性が高まると考えられていた)。
金融システムに生じる可能性のあるストレスを予測するためのテストは、ますます高度なものになってきているものの、金融システムごとに実施されるのが通例だ。Bardosciaたちは、この論文で示した方法は、金融システム間で締結された契約のネットワーク全体に金融危機が蔓延することの結果を考慮に入れるので、より機敏に状況に対応できるという見解を示している。
doi:10.1038/ncomms14416
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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