テネシー峡谷の原子炉の運転停止が大気汚染と出生時体重に及ぼした影響
Nature Energy
2017年4月4日
1980年代にテネシー峡谷にある2か所の原子力発電所が運転を停止したため、電力供給が石炭火力発電所に移り、この地域の大気汚染がかなり増大した。今週のオンライン版に発表された論文では、原子力発電所の運転停止後に大気汚染レベルが最も大きく増大した諸郡において、平均出生時体重が約5%減少したことも見いだされている。
今回E Severniniは、大気汚染と乳幼児の健康に対する、テネシー峡谷開発公社による1985年の2カ所の原子力発電所の閉鎖の影響を調べている。その結果、原子力発電所の運転停止に対応して、電力供給が1対1でテネシー峡谷の石炭火力発電所に移ったことが分かった。つまり、運転停止の結果生み出されなくなった電力を、原子力発電所の代わりに石炭火力発電所が供給していたと思われる。著者は、2カ所の原子力発電所が元々供給していた電力の大部分を生み出した石炭火力発電所がある諸郡で、粒子汚染(全浮遊微粒子で評価される)が増大していることを示している。さらに、粒子汚染の影響を最も大きく受けている諸郡では、その後の人生の行方を予想できる健康指標である平均出生時体重が、(原子力発電所の運転停止前(1983年9月から1985年3月)と停止後(1985年3月から1986年9月)に生まれた乳幼児の平均出生時体重を比べると)約134グラム、つまり5.4%減少していた。
Severniniは、原子力発電を段階的に廃止するという決定は、化石燃料による電力供給が、環境汚染、ひいては公衆衛生に及ぼす悪影響を踏まえて、慎重に検討されるべきであると示唆している。今回の知見が米国のほかの地域や他の国々にも適用できるか確定するには、さらなる研究が必要である。著者は、テネシー峡谷では核エネルギーが石炭に置き換えられたが、今日では天然ガスや、さらには再生可能エネルギーに置き換えられる可能性が高いとも述べている。
関連のNews & ViewsでM Shellenbergerは、「Severniniは、こうした発電所から失われた電力が石炭火力発電に完全に置き換えられ、大気汚染が増大したことを明らかにしている」と書いている。
doi:10.1038/nenergy.2017.51
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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