全球温暖化が引き起こした氷河後退に続く河川争奪
Nature Geoscience
2017年4月18日
カナダ最大の氷河の1つからの融解水は、氷河の後退によって北西方向のベーリング海への流出から南向きの太平洋への流出へと流路が変わったとの報告が、今週のオンライン版に掲載される。観測記録の中でいわゆる河川争奪事象が起きたことは類例がなく、この研究は河川の流路変更は気候変動により最も起きやすいと推論している。
河川争奪事象(異なる集水域による河川の流路変更)は、地形進化、生態系、水供給および水力発電に重要な影響を及ぼす。このような事象は地質学的記録に残っており、約18,000年前に最終氷期極大期の大きな氷床が後退を始めたときに起きたと考えられている。しかしながら、現代の気候温暖化が河川放水系に及ぼす影響はこれまで記録されたことはなかった。
Daniel Shugarたちは、ドローンやヘリコプターで得られた画像を人工衛星データおよび河川水位計の放出量データと共に用いて、カナダ・ユーコン地方のカスカウォルシュ氷河の排水を再現した。Shugarたちは、2016年の春に氷河表面で起きた異常な融解が、以前の後退により活動的な氷河から分離して残った氷を越えて、氷の壁を持つ峡谷が発達するのを引き起こしたことを発見した。このことによって、Shugarたちは、シムス川からの最終的にはベーリング海に排出していた氷河の融解水が、太平洋に流れ出ているアルセク川へと流路を変えたことを示している。またShugarたちは、氷河の後退の原因を調べ、気候変動が圧倒的にその原因となり得ると考えている。
同時掲載のNews & Views記事で、Rachel Headleyは、この研究は「氷河の後退と融解による河川争奪という、気候変動の類いまれな影響を捉えている」と述べている。
doi:10.1038/ngeo2932
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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