【神経科学】発達中の脳における神経回路網のモデル化
Nature
2017年4月27日
2つの独立した研究において発達中のヒトの脳の三次元モデルがそれぞれ作製されたことを報告する論文が、今週掲載される。これらのモデル系を利用すると、培養された脳細胞の発達の重要な側面を調べて、改変でき、正常な脳の発達について解明を進め、特定の疾患(例えば、自閉症スペクトル障害、統合失調症)の神経発達起源を解明できる可能性がある。
ヒト胎児の脳が発達する過程でGABA作動性ニューロンが腹側前脳から背側前脳へ移動し、接続して皮質回路に組み込まれる。今回、Sergiu Pascaたちの研究グループは、この発達過程のモデルを作製したのだが、そのために腹側前脳の細胞と背側前脳の細胞に似た三次元回転楕円体をそれぞれ作製し、それらがシャーレの中で集合し、細胞移動と正常に機能するヒトの皮質回路の発達が起こるようにした。そしてティモシー症候群(自閉症やてんかんを併発する疾患)の患者から採取した細胞を用いて作られた培養系では、細胞移動のパターンが正常な場合と異なっており、胎児の脳の発達後期における有用なモデル疾患が得られた。
一方、Paola Arlottaたちの研究グループは、9カ月にわたって培養状態に維持でき、ニューロンの成熟過程の比較的遅い時期を分析する手段となる脳オルガノイド系を開発した。この「脳に似た」細胞のクラスターには、極めて多様なタイプの細胞が含まれており、その中には自発的活性を有する神経回路網を形成する細胞もある。興味深いのは、このオルガノイドにさまざまな網膜細胞が含まれているので、光を用いて神経回路網の活性を操作できる点だ。光感受性タンパク質を発現するように改変された細胞の活動を光によって制御する光遺伝学的手法は、神経科学研究で広く用いられるツールになっている。それに対してArlottaたちが発表したシステムは、遺伝的改変をせずにニューロンの活動を制御する方法となる可能性がある。
doi:10.1038/nature22047
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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