【健康科学】生体卵巣を作製する方法の設計改善
Nature Communications
2017年5月17日
卵巣にあって卵子を放出する卵胞細胞について、今週掲載される論文では、3Dプリンターで作製されたマイクロ多孔質の足場を使ってマウスの卵胞細胞を発生させ、これを外科的に不妊となったマウスの卵巣機能を回復させるために利用できると説明されている。このマイクロ多孔質の足場は、これまでの足場よりも卵胞細胞の発生がかなり向上しているが、既にマウスを用いた別の研究で、同じ材料が別の設計による足場に用いられて、卵胞細胞の移植が成功している。今回の研究は、3Dプリンティング技術を用いて設計された卵巣移植片がマウスに移植されて正常に機能することが初めて実証され、生殖能力の保存という分野で研究の進展があったことを意味している。
(がん治療のために卵巣の機能が低下して)がん生殖医療を受けている患者の生殖能力を回復させ、ホルモンを元の状態に戻すために有効な卵巣移植片を開発して臨床的に利用することが必要になっている。単離された卵胞を使って人工的な生体卵巣を作製することは可能だが、これらの卵胞細胞は、3次元環境中で保持されて正常な細胞間相互作用が起こる状態を維持しなければならない。過去の研究では、ヒドロゲルの足場によって適切な環境が得られることが示され、この方法で作製された生体卵巣をマウスに移植して、生仔出産に成功したことが明らかにされている。
今回、Ramile Shahたちの研究グループは、こうした研究を一歩進め、足場の設計に改良を加え、足場の構成を微細な孔の構造の点で改変することによって卵胞と足場の相互作用を変化させた。その結果、卵胞と足場の相互作用が増えると、卵胞の拡散が抑制され、生存数が増えることが実証された。そして、Shahたちは、これまでの研究でも観察されたように、こうしてできた生体卵巣を外科的に不妊となったマウスに移植したところ、マウスが妊娠可能な状態に戻り、健康な仔マウスを出産したことを明らかにした。
このように卵巣機能が妊娠のために生理的に十分な状態まで回復することが明らかになったが、卵巣の機能を回復させる方法は効率が低く、マウスにしか使えない。また、ヒトの卵胞は、マウスよりもかなり大きいためにマイクロ多孔質の足場の構造と孔のサイズを大幅に変える必要があると考えられ、今回の研究で用いた足場をヒトの卵胞に直ちに応用することはできない。さらに、ヒトの卵胞は、マウスよりかなり大きく成長し、急速な成長でもあるため、このように足場を使う方法によって、移植後のヒトの卵胞の生存を維持できるのかどうかは分からない。
doi:10.1038/NCOMMS15261
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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