【気候科学】パリ協定の目標達成に向けた各国の約束内容を明確化する
Nature Communications
2017年6月7日
パリ協定の各締約国は、この協定に定める目標の達成に向けた約束草案であるnationally determined contribution(NDC、国が決定する貢献)を提出している。しかし、その内容が不明確なために2030年の世界の温室効果ガス排出量の推定値に約30%の変動幅が生じる可能性のあることが、このほど行われた分析研究で明らかになり、この研究結果を報告する論文が掲載される。また、今回の研究は、各締約国のNDCを正確に解釈できるように明確化する簡単な方法を追加することで、この約30%の不確実性のうちの約10%分を解消できる可能性のあることを示している。
パリ協定に定める気候に関する目標の達成に向けた進捗状況を評価するには、この協定の実施状況を検討する作業が必要とされ、各締約国は、気候に関する計画であるNDCを5年ごとに策定し、提出することになっている。NDCは、気候変動緩和活動から実施上の課題までのさまざまな側面を対象としているため、NDCの解釈内容に曖昧さが残り、そのために温室効果ガス排出量の将来予測に不確実性が生じている。このことはパリ協定に定める気温に関する目標値(気温上昇を摂氏2度未満に抑えること)の達成にとって重要な意味を持っている。
今回、Joeri Rogeljたちの研究グループは、統合評価モデル化の枠組みを用いて、現在のNDCから暗示される温室効果ガス排出量を推定した。その結果、2030年の全球的温室効果ガス排出量は、中央値が年間二酸化炭素換算52ギガトンと推定され、-10%~+20%の変動幅という不確実性が存在していることが明らかになった。この不確実性については、各国間で社会・経済的発展の前提条件が異なっていることが主たる原因とされ、それより遠い原因としては、NDCの目標値の設定と代替エネルギーの計算方法に違いがあることが挙がっている。温室効果ガス排出量の全体的な変動幅は、簡単な技術的明確化によって10%分縮小しうるが、残りの不確実性は、政治的選択によって生じているため、その部分を圧縮することは難しいとされる。
長期的な地球温暖化による気温上昇が摂氏1.5度または2度に留まる可能性は、2030年の温室効果ガス排出量に関する不確実性の幅に応じて大きく変わる。今回の分析研究は、パリ協定の効果的な実施に役立つ可能性のある複数の活動を示唆している。
doi:10.1038/ncomms15748
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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