【ウイルス】動物からヒトへの感染症の伝播を予測する
Nature
2017年6月22日
コウモリ類、霊長類と齧歯類がヒトに伝播し得るウイルス種をどれほど大量に保有できるのかを分析する研究が行われた。この研究により、ウイルスが動物からヒトに感染するかどうかに影響を及ぼす要因が明らかになり、ヒトの健康にとっての新たな脅威が潜んでいる可能性の非常に高い地域と哺乳類が地図で表示された。この成果を報告する論文が、今週掲載される。
ヒトの新興感染症の大部分は、野生の哺乳類が発生源となっており、特に人畜共通ウイルス(HIV、エボラ、SARSなど)によっている。動物からヒトに伝播する可能性が非常に高いウイルスを予測できれば、新興疾患の発生を監視し、将来的な流行可能性を阻止するための健康プログラムに役立つ可能性がある。
今回、Kevin Olival、Peter Daszakたちの研究グループは、人畜共通ウイルスの異種間伝播によるヒトへの感染に影響を与える要因の解明を進めるため、哺乳類とウイルスの関係(2,800件以上)を集めたデータベースを構築し、データ分析を行った。分析対象となったウイルス種(586種)の中で263種(44.8%)がヒトにおいて検出され、そのうちの188種(ヒトウイルスの71.5%)が人畜共通ウイルス(ヒトから1回以上検出され、別の哺乳類から1回以上検出されたウイルス)と定義された。また、Olivalたちは、人畜共通ウイルスが宿主動物種からヒトへ伝播するリスクは、宿主動物種とヒトとの近縁度、ヒトとの接触の機会、伝播の基盤となるウイルスの形質によって異なることを明らかにした。保有するウイルスにおける人畜共通ウイルスの割合が最も大きかったのはコウモリ類で、次いで霊長類と齧歯類の順だった。
さらにOlivalたちが人畜共通ウイルスのホットスポットの地理的位置を予測したところ、その分布パターンが宿主動物種によって異なっていた。例えば、コウモリ類から検出された人畜共通ウイルスは、アジアの一部地域と中南米で非常に多く見られた。一方、霊長類から検出された人畜共通ウイルスは、中米、アフリカと東南アジアに集中する傾向があり、齧歯類から検出された人畜共通ウイルスの大部分は、北米、南米と中央アフリカの一部で見つかっている。
今回の研究結果は、新たな人畜共通ウイルスを同定し、ヒトの健康に対する潜在的脅威を評価するための国際的なウイルス発見プログラムが正しい情報に基づいて進められるようにする上で役立つ可能性がある。
doi:10.1038/nature22975
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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