【ウイルス】ウシを免疫することによりHIVに対する中和抗体を誘発する
Nature
2017年7月21日
HIVエンベロープ(HIVの外膜)を模倣したタンパク質を使って繰り返し免疫する方法を用いて、ウシの体内でさまざまなHIV株を抑制する広域中和抗体を迅速に作製できたことを報告する論文が、今週、オンライン版に掲載される。この新知見は、HIVワクチンの設計にとって有益な情報となる可能性があるが、この方法によりヒトの体内で類似の応答を誘導できるかどうかは明らかになっていない。
広域中和抗体は、一部のHIV感染者の体内で生成され、HIV免疫療法は、そうした抗体の作製を誘導できるワクチンの開発を目標としている。この効果をヒトとさまざまな動物モデルの体内で実現することは難題となっており、その理由として、一部の動物が、広域中和抗体に成熟するために必要な前駆体を十分に保有していないことが1つの可能性として挙がっている。これに対してウシの体内で生成される抗体は、他の動物の場合より広域中和抗体に成熟する能力が高いと考えられている。そこでDennis Burtonたちの研究グループは、HIVエンベロープを模倣するように設計されたBG505 SOSIPタンパク質を使って4頭のウシを免疫した。
今回の研究では、免疫した後に広域中和抗体が急速に生成されたことが観察され、例えば、1頭のウシの体内で生成された中和抗体は、42日後に研究対象のHIVサブタイプ(117種)の20%を中和し、381日目にはこの中和範囲が96%に増加していた。ヒトの体内でこれと類似した抗体を自然感染によって作製しようとすれば5年以上が必要となる。一方、エンベロープタンパク質を使って免疫されたラマを使った以前の実験では、効き目が弱く中和範囲の限定された広域中和抗体がわずか4か月強で生成された。
HIVワクチン開発に立ちはだかる課題の一部は、ヒトの抗体レパートリーに制約があることが原因となっている可能性が、今回の研究で得られた知見により示されている。しかし、ウシの体内で急速な応答が観察されたことで、ウシが他の病原生物に対する抗体を生成するための最適なモデルとなり、さまざまなワクチンの設計に役立つ可能性のあることが示唆されている、とBurtonたちは結論づけている。
doi:10.1038/nature23301
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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