フィリピンの小島嶼の住民は集団移転せずに海水準上昇に適応しようと努力している
Nature Climate Change
2017年7月25日
定期的な洪水に見舞われるフィリピンの標高の低い小島嶼では、住民が、永久的な移転ではなく、地域的な適応戦略をとる傾向のあることを報告する論文が、今週掲載される。気候変動による海水準上昇の影響可能性のシミュレーションを行う際には、住民の移動や地域の居住適性の喪失を前提とするのではなく、人間の適応的反応を考慮に入れなければならないことが、今回の研究で示唆されている。
今回、Ma. Laurice Jameroたちの研究グループは、2013年の地震以来、満潮時に完全に浸水する4つの島で決してなくならない洪水に対する住民の対応を調べるため、世帯調査、地域の指導者とのフォーカスグループディスカッションと主要情報提供者の面接調査を実施した。その結果分かったのは、住民がさまざまな地域的戦略をとって満潮による洪水に対処しており、島からの移転を行っていないことだ。そうした戦略の中で、高床式住宅の建設などの戦略は有効だが、サンゴ石を使って床のかさ上げを行う戦略などは、長期的に見ると島が洪水に対して脆弱化する。
Jameroたちは、沿岸地域に対する海水準上昇の影響予測の大部分で地域住民の大量移転が前提になっているという見方を示しているが、今回の研究では、気候変動を原因とする将来的な海水準変動に類似した事例に対する現実の適応的反応を調べて、この前提に疑問を投げかけ、海水準上昇の影響を受ける可能性の高い地域で環境に配慮した適応戦略を定めることの重要性を明らかにしている。
同時掲載のDominic KnivetonのNews & Views記事には次のように記されている。「政策当局者の多くは、将来的な気候変動の影響が非常に深刻なため、特に小島嶼国で国民の集団移転が起こる可能性が残っていることを明らかに恐れている...これに対して、Ma. Laurice Jameroらの論文は、現実の海水準上昇に対する移住というまれな事例について論じ、気候変動に対し脆弱になっている可能性があり、閉じ込められた状態にあると判断される地域社会は移転させる必要があると感じている政府に対して注意を喚起している」。
doi:10.1038/nclimate3344
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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